2022年12月17日、プーチン大統領が特別軍事作戦の司令部を訪問 写真/代表撮影/AP/アフロ

(小林偉:放送作家・大学講師)

核戦争の危機に晒された人類

 長引くロシアによるウクライナ侵攻。その中で12月7日、ロシアのプーチン大統領は「核戦争の脅威が高まっている」という旨の発言を行いました。同時に「我々は狂っているわけではない。核兵器が何なのか分かっている。それをカミソリのように振り回して、世界中を走り回るわけではない」とも続けていますが、ロシアのような核保有国のトップによる、こうした発言は恐ろしさ以外の何物でもありませんよね。

 過去にも人類は核戦争の危機に晒されたことが何度かありました。

 1962年、当時のソビエト連邦が中米のキューバに核ミサイル基地の建設を計画していることを受け、アメリカとソ連の間で緊張が高まった、いわゆる“キューバ危機”や、1964年のトンキン湾事件に端を発するベトナム戦争が長期化したことで、アメリカによる核兵器使用が取り沙汰されたこともありました。1974年から21世紀に至るまでのインドとパキスタン間の紛争でも、核戦争の脅威はありました。

 幸いにも、これらの紛争によって結果的に核兵器は使用されませんでしたが、ご存知のようにそれ以前、日本には太平洋戦争終盤に核兵器が使用されています。

 そんな“核戦争”の恐ろしさや抑止・警告のメッセージは、映画人や音楽家たちなどから送り続けられてきましたが、今回はそんな曲を幾つかご紹介いたしましょう。

 まずは、こちらの曲。

●EVE OF DESTRUCTION/BARRY McGUIRE

 1965年にアメリカのシンガー・ソングライターのバリー・マクガイアが歌った曲で、「明日なき世界」という邦題が付けられています。

 原題を直訳すると「破壊の前夜」というこの曲、実はバリー・マクガイアが作ったものではなく、P.F.スローンという当時20歳の若者の手によるもの。歌詞の内容が過激だという理由でボツになりかけていたところを、タートルズというバンドが取り上げましたが話題にはならず、その後、バリーによるカバーヴァージョンが世界的な大ヒットとなったという数奇な運命を辿った曲でもあります。

 その問題の歌詞を少し訳してみますと・・・「東側の世界が大変なことになっている。突然暴力が起こり、銃に弾丸が装填される。皆、十分大人になったのに、やることは投票ではなく人殺し。戦争なんか信じていないのに、君たちが持っているその銃は何だ。(中東の)ヨルダン河には死体がそこら中に浮かんでいるのに、僕の友人である君は何度も言うんだね。“破壊の前夜”にいるなんて信じられないと。僕が感じている恐怖が君には見えないのだろうか? そのボタンが押されるならば、僕たちに逃げ場はないんだ」という具合。核戦争が起ころうとしている現実への警告的な内容なんですよね。

 この曲は当時、アメリカの多くのラジオ局で放送禁止となりましたが、逆にそれが話題となり、全米チャート1位に輝いたというのが、何とも皮肉です。

 ちなみにP.F.スローンはこの数年後に心を病んで音楽業界の一線から退き、2015年にひっそりと訃報が届けられました・・・。

 続いては、1980年代に大ヒットを連発していた、オーストラリアのバンドの曲。