まずいタイミングで回ってきたツケ
その影響は新型コロナよりも広い範囲に及ぶ。
習氏はゼロコロナ政策を忠誠心の踏み絵とすることにより、健康危機を政治危機に変えてしまった。
感染者の発見と行動制限の執行に用いるアプリを国民に押しつけることにより、自分のゼロコロナ政策は「国民第一」だとする考え方に背き、断固たる権威主義国家をあらゆる家庭に持ち込んだ。
そして経済への影響を顧みずにゼロコロナ政策に固執することで、中国共産党が権力を握る主たる根拠の一つ――安定と繁栄を保障できるのは共産党だけだという主張――にも疑念を投げかけた。
習氏のリーダーシップが試されるこの状況は、まずいタイミングでめぐってきた。
新型コロナのような呼吸器系の病気は、冬になると格段に広がりやすくなる。
おまけに、サッカー・ワールドカップのテレビ中継を検閲が始まる前に見た人々が気づいたように、ほかの国々では人々がマスクをつけずに自由に行動しているのに、中国の人々はロックダウンされている。
世界が見守るなかで、ゼロコロナ政策の失敗は人命を危険にさらす失策であるばかりか、国の恥にもなっている。
習近平と共産党の支配に疑問符
この感染症大流行から容易に抜け出せる道は、習氏の目の前にはない。中国共産党は高齢者へのワクチン接種を推進するとしている。
その方針自体は正しいが、ワクチン接種の展開と抗ウイルス薬の調達には数カ月を要する。ロックダウンはますます厳しくなるだろうし、それでも感染者が大発生する恐れは残る。
ベストシナリオが実現しても、中国はコロナ規制からの「出口」で生じる重症化と死亡の波と経済混乱を経験することになる。
このトレードオフにいかに対処するかによって、習氏の評価が決まる。
これまでの政策の誤りについて習氏や中央政府を中国国民がどの程度非難するのか。中国共産党が努力して編み出した監視・制御のシステムは大衆の異議に持ちこたえられるのか。
答えは誰にも分からない。
そして、強まるナショナリズムは中国共産党への忠誠心をどの程度保証してくれるのか断言できる人は誰もいない。
権力を握ってから10年、習氏は対価を払うことなく政治経済への支配力を強めてきた。
コロナ禍はそのすべてを疑念の渦へと投げ込んだ。