(英エコノミスト誌 2022年11月26日号)
長い危機は欧州を弱くし、世界における地位を脅かす。
世界各地の欧州の友人に、この旧大陸の今後についてどう思うか尋ねると、往々にして2種類の感情を伴った答えが返ってくる。
1つ目は感嘆だ。
ウクライナを助けてロシアの侵略に抵抗する戦いにおいて、欧州は団結と気骨、多大なコストも厭わない断固たる態度を示してきたからだ。
だが、2つ目は警戒心だ。
情け容赦ない経済的な締め付けにより、欧州は2023年以降、打たれ強さを試されることになる。
世界のエネルギーシステムの再編、米国の経済ポピュリズム、地政学的な仲違いが欧州連合(EU)や英国などのEU非加盟国の長期的な競争力を脅かすのではないかとの懸念が強まっている。
リスクにさらされているのは欧州の繁栄だけではない。大西洋をまたぐ同盟関係の健全性も脅かされている。
プーチンのエネルギー兵器の威力
ここ数週間は明るいニュースが欧州から流れてきたが、だまされてはいけない。
確かに、エネルギー価格は夏場の高値より下落しており、好天も続いたことからガスの備蓄施設はほぼ満杯になっている。
だが、エネルギー危機はまだ危険をはらんでいる。ガス価格はまだ長期平均の6倍もの高値を付けている。
また、ミサイル攻撃のせいでウクライナ全土が緊急停電に陥っているところへ、ロシアは11月22日、唯一稼働している欧州向けガスパイプラインの供給量を絞ると脅してきた。
欧州は2023年にもガスの備蓄を行わなければならず、その際にはパイプラインで送られてくるロシアのガスなしでの備蓄を強いられる。
ウラジーミル・プーチン大統領のエネルギー兵器は、ウクライナ以外の国々にも犠牲を強いる。
本誌エコノミストのモデルによれば、平年並みの冬には、実質エネルギー価格が10%上昇すると死者が0.6%増加する。
従って今年のエネルギー供給の逼迫は、欧州全土で10万人を超える高齢者の超過死亡を引き起こす恐れがある。