(英エコノミスト誌 2022年11月19日号)

暗号資産の未来は詐欺との戦いに勝てるかにかかっている

大手交換所FTXの破綻は暗号資産の評判と野心に壊滅的な打撃を与えた。

 転落は急激だった。

 つい2週間前まで、サム・バンクマン・フリード氏は我が世の春を謳歌していた。その時点で業界第3位の規模を誇った暗号資産(仮想通貨)交換事業者FTXトレーディングは、320億ドルの企業価値があるとされていた。

 同氏の個人資産は160億ドルと推計された。

 バンクマン・フリード氏を絶賛するシリコンバレーのベンチャーキャピタリストにとっては、同氏はテレビゲームに興じながら投資家を魅了できる金融の天才で、ひょっとしたら世界初の1兆ドル長者になる人物だった。

 米ワシントンでは暗号資産業界の顔役として受け入れられ、連邦議会の議員と親しく付き合い、業界の規制に影響を及ぼす取り組みに資金を出していた。

 今ではもう、そういったことは一切ない。

 代わりに残されたのは100万人の怒れる債権者、経営がぐらついている数十の暗号資産業者、そして規制当局と警察によるおびただしい数の調査・捜査だ。

 FTXのあっという間の崩壊は、破産とスキャンダルの歴史を持つ業界に壊滅的な打撃を与えた。

 暗号資産がここまで罪深く、無駄で無益に見えるのは初めてだ。

FTX破綻の衝撃

 FTXの破綻について新しいことが明るみに出れば出るほど、この話はますますショッキングなものになる。

 例えば、FTXのサービス利用規約には、顧客の預かり資産を傘下のトレーディング部門に貸し付けることはしないと明記されていた。

 ところが実際には、140億ドルの預かり資産のうち80億ドル相当がやはりバンクマン・フリード氏が所有する投資会社アラメダ・リサーチに融資されていたと伝えられる。

 融資に当たっては、FTXは無からひねり出された自社のデジタルトークンを担保として受け入れた。

 預かり資産の引き出し請求が殺到したことで、FTXのバランスシートには大きな穴が空いていたことが判明した。

 挙句の果てに、FTXが米国で破産申請した後、不思議なことに何億ドルもの資金が口座から流出した。

 大物、なれ合いの融資、あっという間の経営破綻――。

 これらはいずれも、17世紀のオランダでのチューリップ・バブルから18世紀の英国での南海泡沫事件、1900年代初めの米国での銀行危機に至る古典的な金融バブルで見られる要素だ。

 昨年のピーク時には、すべての暗号資産の時価総額の合計はほぼ3兆ドルという目もくらむような水準に達し、2021年の年初の約8000億ドルから大きく膨らんでいた。

 それが今では8300億ドルに戻っている。