ジョンソン元英首相「ここで自分たちのバッテリーを作るんだ」

 HJSが示す西側の選択肢は2つ。1つ目はEVのサプライチェーンにおける中国の優位性をネットゼロの目標達成のため必要悪として受け入れる。中国との衝突が起きれば貿易の大幅な減少につながる恐れがある。2つ目は中長期的な視野でサプライチェーンの多様化を図るために大規模な投資を行うことだが、供給量を十分に増やすことは難しい。

 中国の制裁リストに加えられている英国の対中最強硬派イアン・ダンカン・スミス元保守党党首(下院議員)は「中国は世界第二位の経済大国であり、私たちは中国が生産するものに深く依存している。一方で私たちは中国の国内外で攻撃的な姿勢が強まっているのを目の当たりにしている」と指摘する。

イアン・ダンカン・スミス元英保守党党首(筆者撮影)

「コロナ危機でも感染防護具のサプライチェーンを中国に依存し過ぎていることが問題になった。携帯電話、コンピューター、その他多くの技術製品は中国生産に大きく依存している。西側の自由な世界は中国の独裁的で残忍な政権に非常に依存している。中国は戦略的に自らをそのように位置づけることに成功している」

 ダンカン・スミス氏がボリス・ジョンソン首相(当時)に「中国がバッテリーの生産で大きなシェアを占めている。それなのに私たちはEVを急いで作っている」と問いかけると、ジョンソン氏は「そうだ。英国で自分たちのバッテリーを作るんだ」と答えたという。しかし現実にはそうはならず、英国のバッテリー生産能力には限界がある。

 ロシアのウクライナ侵攻、米中の覇権争い、気候変動問題で電気自動車や部品などすべてが戦略物資化し、地政学の渦に巻き込まれている。