霞が関や永田町を取材するテレビや新聞の記者は、裏の裏まで知る事情通になるほどに評価される。貴重な情報を得るためには、内部の実力者に話を聞けるだけの関係づくりが欠かせない。
だが、そのような力関係で、本当に真実をすっぱ抜くことができるのか。操られて都合のいいことを書かされているのではないか。評価されるエース記者たちは本当にいい仕事をしているのか──。『朝日新聞政治部』(講談社)を上梓した、ジャーナリストの鮫島浩氏に話を聞いた。
◎鮫島浩氏のメディア「SAMEJIMA TIMES」を是非ご覧下さい
(聞き手:渡辺 龍、シード・プランニング研究員)
──政治家への密着取材は政治家との癒着につながることもありますが、かといって政治家から距離を取れば、表面的な事象を伝えるだけの政治報道に陥るといった問題意識が本書には書かれています。密着する記者と外から分析する記者など、異なるタイプの記者がいることで、健全かつ効果的な報道が可能になるということでしょうか。
鮫島浩氏(以下、鮫島):政治取材には本来、密着、ましてや癒着は必要ありません。記者は公開情報や記者会見、情報公開制度などでガンガン攻めて、権力を追及することが本来のジャーナリズムの姿です。
ところが、今のマスコミは大原則がおろそかになっていて、むしろ密着取材を大事にし、裏技が「表」になってしまっている。これが、国家権力を相手にする取材での一番ダメなところです。
「裏」の取材は特殊能力が必要で、普通の人には無理です。特殊能力を持っている人とは、人生で苦しい思いをたくさんしたり、貧しいところから這い上がってきたり、人の心を読むのがうまかったり、そういう特殊な人生経験が豊富な人のことです。
普通の人が密着取材をしたら、コロッと騙されていいように使われてしまう。だから、自信がない人や騙されやすい人、騙されたことにも気づかない人は密着取材はやらない方がいい。
やらないからといってジャーナリスト失格ではありません。きちんと「表」で追及して、公表データや客観データを基にしっかり分析して勝負する。これが本当のアカデミックなジャーナリズムかもしれません。
裏取材は中途半端に手を出すと火傷してしまいます。自分が困るだけならいいけれど、変な情報を流して社会全体や読者をミスリードすることになってしまう可能性もあります。
個人の人間関係なら、普通は騙す方が悪い。ただ、記者が取材対象に騙されて、ひいては読者を騙してしまうことになれば、プロとして失格です。記者という仕事は絶対に騙されてはならないのです。
しかし、今の新聞やテレビには、「自分は幹事長と仲良しだ」「電話したら総理が出てくれる」みたいにいい加減な根拠で取材する記者がたくさんいるから騙される。権力に都合の良い、いわゆる世論操作のために流された情報が、テレビや新聞にあふれているというのが残念な現実です。
──記者会見でどんどん追及していくような報道環境が、日本にはなぜないのでしょうか。