マンションデベロッパーはブランド広告を重視するが、たいていの購入者は立地に引かれて訪れる(写真:アフロ)

(沖 有人:スタイルアクト代表取締役)

 新築マンションの集客に寄与するものは、二つに集約される。

 まずは立地で、これは絶大な力を持つ。次に価格であるが、最近は安い物件が存在しないと言ってもいい。原価である土地代と建築費が上がっており、これまでにないほど高い価格で売り出すしかないからだ。

 そうなると、集客に寄与するものは立地がほとんどすべてになる。

 実際、マンションを探している人の集客範囲は狭く、検討しているのは地元の人が中心だ。その際に、ブランドを気にする人は、実はそれほど多くない。知らないブランドだから見にも行かない、ということにはならないのだ。

 新築物件に問い合わせして面談や来場を予約する人は、購入検討者の100%を占める。これ以外の人が購入することはない。この購入検討者は立地に引かれてやってきた人たちであり、マンションのブランド広告を見ただけで来た人は皆無だ。

 ところが、マンションデベロッパーの多くは認知度を上げるためにブランド広告を出している。ここまでの論法から見れば、来場しない人に広く広告を打つのは砂漠に水を撒くのと同じ無駄な行為になる。

 この1~2年、マンションデベロッパーの経費削減はかなり進んだ。先ほど触れた原価の高騰で分譲価格が上昇する中、価格を上げれば売れなくなることを危惧してのことだ。

 経費削減の例としては、販売センターの建築コスト削減や広告の制限、販売員の人数削減などだ。でも、ブランド広告は続いている。ブランド広告の部署と担当者が存在し、これに手を付けなかったためだ。

 そんな部署に予算があると、施策の費用対効果が見えにくいだけに、わけの分からない方向に進みかねない。

 SDGsの取り組みをアピールしたり、10年はターゲットにならないZ世代に広告を打ったり、他社に後れをとっていると広告代理店に指摘されると、それを新たな目標にし始める。そもそもの話として、その広告に意味がないとしても、である。

 そのとばっちりを受けるのは、不要なブランド広告コストの乗ったマンションを購入する人だ。その上乗せされたコストは、築1年が経過して中古になった途端に剥がれ落ちる。それは、値下がりを通して購入者を直撃する。

都心部ではマンションの分譲価格が高騰しており、デベロッパーも経費削減を進めている(写真:アフロ)