写真/アフロ

(歴史家:乃至政彦)

血湧き肉躍る『竹取物語』の世界

 かぐや姫の登場する『竹取物語』のストーリーは誰しも知っていよう。

 ただ、その文脈に隠された政治的背景は、ほとんど想像されていない。

 私はこの物語に、SF的な戦争計画があると思っている。謎を解く鍵は、かぐや姫の素性にある。

 全2回として、前編となる本稿では、かぐや姫が5人の貴公子を利用して何を企んでいたかを追跡し、後編ではその種明かしを行なおう。

 かぐや姫の物語は、今年上映されたシン・ウルトラマンや55周年を迎えたウルトラセブンにも勝るSF的世界の背景設定が読み取れるようになっている。

 子どもの頃に親しんだおとぎ話に、大人の想像力を交わらせる楽しさを味わってもらえれば、幸いである。

 

豊臣時代の写本が最古

 とりあえず、『竹取物語』の背景を述べておこう。「物語の出はじめの祖(おや)」(『源氏物語』)と伝わる『竹取物語』は、仮名(かな)が普及した平安時代前期、9世紀末から10世紀初頭までの成立とされている。「今は昔」の出出しが有名だが、これは「今から思うと昔」とする解釈と、「今この時間をリアルに昔だと想像してもらいたい」とするふたつの解釈がある。後者が正しいかもしれない。そうだとしたら、まるでウルトラQのオープニングナレーションである。

 これを書いた作者は不明で、仏書漢籍に通じていることから源順、源融、遍昭などの僧侶が関わった可能性が有力とされている。しかしいずれも根拠がとても弱く、定説とはなりえない。その内容もどういうつもりで書かれたのか、まるで不明である。

 外国の古典との比較研究により、「中国の天人流謫譚に精通したわが国の知識人が、仏書漢籍やわが国の羽衣説話・小さ子譚・求婚難題譚などの民間伝承を利用して創作した日本版天入流謫譚」(奥津春雄『竹取物語の研究』翰林書房・2000)だとする説がある。なるほど、そうかもしれない。

 また、もとの物語があとになって多くの人が手を加えたため、原典から内容を一部変更されている可能性も指定されている。例えば、現存する最古の写本は豊臣時代のものだが、ここに竹取の翁の年齢が冒頭あたりで70歳程とされているのに、途中から50歳程になっているのだ。

 ほかにも、5人登場する貴公子のうち3人目を紹介する時、「今ひとり」と呼んでいることから、本来は3人までしか想定していない作りだったことが推測できる。後世の加筆によって、文章に矛盾が生じてしまっているのである。

 原典ではもっと単純素朴な物語として、完成していたことであろう。