毎日のように目撃した原発に潜り込む不審者
国内にある原発の多くがそうであるように、Nさんの町の原発も海と山に囲まれた自然の中にある。
Nさんの原発での主な仕事は、敷地の外に取り付けられた監視カメラで、外部から不審者が侵入しないかを見張ることだ。
ただ、実際には不審者が入ってくることはない。主な監視対象となるのは、もともと原発が建てられた一帯を住処(すみか)としているタヌキ、キツネ、イノシシ、クマ、ハクビシンなどの野生動物である。
「クマは手の肉球がぶ厚いのか、電流が流れる柵を乗り越えて敷地内に入ってきてしまうんです。彼らはやがて出ていきますが、私たちはクマが外に出ていくまで監視しなければいけなくて」
クマの活動期となる春先は、毎日のようにクマが入って来る。すると、真夜中でも原発内の上層部が緊急会議を開き、大騒ぎになるのだそうだ。
Nさんが原発で働き始めた半年後、遠く離れた福島で東日本大震災に伴う福島第一原発の事故が起こった。自分が働く場所の恐ろしさを、改めて感じなかったのだろうか。
「安全ですか? そもそも原発の町に住んでいますから、特別恐ろしいと思うことはありません。家にいようが、原発の中にいようが同じこと。地元に原発があるというのはそういうことです」
原発が危険と隣り合わせの場所であることは疑いようがない。それでも、原発と共に生きている人の感想はこのようなものなのだ。
むしろ、Nさんが原発の仕事を大変だと感じたのは、勤務体制だった。
「一番キツいのは、一日中ずっと原発内に留まらなければいけないこと。一度出勤すると、24時間は家に帰れないんです。勤務が終わるまで食事も仮眠もすべて原発内で済ませなければいけない。ここにいる人たちと共同生活しているようなものです。人間関係がこじれて辞める人が一番多い」