(文:春名幹男)
機密文書所持で私邸をFBIが家宅捜索――次期大統領選を目指すトランプ氏に対する陰謀との声も出たが、実は1年半以上前からの調査と捜査に基づいている。トランプ氏は今後、「スパイ防止法」違反に問われる可能性がある。
「冬のホワイトハウス」とドナルド・トランプ前米大統領が呼んだ、自身が所有する南部フロリダ州パームビーチのリゾート施設「マールアラーゴ」。ここでは故安倍晋三元首相や習近平中国国家主席との首脳会談も行われた。実はこの施設、外国情報機関のスパイが情報収集の格好の標的にしてきたというのだ。
8月8日、前触れなしに米連邦捜査局(FBI)捜査官や鑑識官ら計三十数人がこの私邸部分を急襲し、家宅捜索した。証拠不十分でも捜索か、などとさまざまな批判があった。しかし、現実には、他の事件も含めて、「トランプ包囲網」はさらに狭まった形だ。
FBIは、過去1年半以上にわたる米政府関係機関の綿密な調査と捜査を経て、トランプ氏側近の「スパイ」から得た確実な情報を基に、満を持して踏み切った捜索だった。適用された法律は「スパイ防止法」。
実際、捜索では極めて機密性の高い文書が押収された。すでに連邦大陪審による審理が進められ、先に米政府が回収した機密文書所持について違法との判断も示されている。
トランプ氏は11月の中間選挙に向けて支持を固め、2024年大統領選挙への再出馬発表も視野に入れる。
だが、捜索で得た文書の解読と関連捜査によって、ロシア疑惑などこれまでの「ミステリー」(『ニューヨーク・タイムズ』)が解明される可能性があり、その場合、トランプ氏の政治生命に深刻な影響を与えることになる。
いずれにせよ、FBI対トランプ氏の攻防は第1幕が切って落とされた。
1年半前、文書提出を渋ったトランプ
この事件の発端は約1年半前に遡る。トランプ氏は昨年1月20日に大統領を退任してホワイトハウスを去る際、自分が扱った文書類をある程度、米国立公文書記録管理局(NARA)に引き渡した。
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