(写真:AP/アフロ)

(譚 璐美:作家)

 今夏、世界の金融界に衝撃が走った。フィナンシャルタイムス(7月21日付)が、「HSBCホールディングスの中国証券子会社に中国共産党委員会が設置された」と報じたのだ。この第一報を受け、ロイター、ブルームバーグ、ウォールストリートジャーナルなど、欧米の経済ニュースサイトはこぞって記事を転載し、動揺を隠さなかった。

 中国共産党委員会(党委)が設置されたのは、世界最大級のメガバンクHSBCホールディングス(香港上海銀行、本社ロンドン)が中国に持つ子会社の前海証券だ。HSBCは資産運用合弁など他の中国事業にも党委を置いたと明かしている。

 80年代に中国で経済開放政策が実施されて以降、中国に進出した外国企業が中国企業との間で合弁会社を設立すると、中国側パートナーの幹部の中に必ず一人は「仕事内容が不明の人物」がいるのに気が付く。それが監視役の中国共産党員であることは薄々分かっていたが、暗黙の了解事項として認識され、少なくとも対外的に誇示されることはなかった。それが今や公然と「中国共産党」の名の下に委員会を設置したことは、中国に進出する外資系企業にとって一大事だ。

外資系金融機関での党委設置は初

 中国の会社法では中国企業に党委の設置が義務付けられているが、外資系金融機関に設置されたのは初めてで、今後、中国人株主を通じて共産党の意向が反映される可能性がある。また、HSBCを前例として、中国に進出している他の外資系銀行にも党委設置の圧力がかかることが予見され、世界の金融界は戦々恐々としている。

 HSBCホールディングスはS&Pグローバル・マーケット・インテリジェンスが発表した「世界のメガバンク(総資産)ランキング2020」によれば、世界第六位の規模を誇っている。

 ちなみにランキングのトップ10は第一位から第四位まで中国の銀行が占めて、中国経済の規模の大きさと市場の大きさを物語っている。中国を除けば、第五位が三菱UFJフィナンシャルグループ(日本)、第六位がHSBCホールディンクス(英国)、第七位JPモルガンチェース(米国)、第八位バンク・オブ・アメリカ(米国)、第九位BNPパリバ(フランス)、第十位クレディ・アグリコール(フランス)と続く。