(文:名越健郎)
8月9日、クリミアのロシア空軍基地で起こった謎の大爆発は、ウクライナによる「敵基地攻撃能力」のアピールだった可能性がある。今秋に計画されるヘルソン、ザポリージャ2州での住民投票は同地域のロシア併合に道を開き、この戦争を「主権国家同士の全面戦争」へと変貌させかねない。その阻止を企図するウクライナの南部奪回作戦が本格的に開始されたとも考えられる。
危険と機会を併せ持つ「ウクライナの意思表示」
ロシアが支配するウクライナ領クリミア半島西部のサキ空軍基地で8月9日に起きた大爆発は、ウクライナ側のミサイル攻撃、ないしは破壊工作の可能性が指摘されており、その場合、戦争が新段階に入ったことを意味する。
開戦から半年になるロシア・ウクライナ戦争で、ウクライナ側が初めてロシアの支配地域に大規模な攻撃を仕掛けたことになる。英国のロシア専門家、マーク・ガレオッティ氏は「戦争の形態が変わる可能性がある。ウクライナが戦争をエスカレートできるという意思表示であり、危険と機会の両方を併せ持つ」と指摘した。(The Spectator, 8月11日)
ロシアは今秋、ウクライナの東部と南部を併合する住民投票を計画しており、ウクライナ側はそれを阻止するため南部奪還作戦に着手している。8、9月の戦況が重大局面になる。
サキ空軍基地の大爆発では、これまでの戦況と異なる情景がみられた。過去半年間はロシアがウクライナの民間施設を攻撃したり、虐殺、暴行、略奪と残虐行為を繰り返したが、今回はロシア人がパニックになって逃げまどった。
ロシアの独立系メディア「ノバヤ・ガゼータ」欧州版によると、9日午後3時過ぎ、クリミア西部の空軍基地で断続的に大爆発が起こり、大音響とともにキノコ雲のような噴煙が広がった。基地に近い黒海沿岸の保養地ノボフェドロフカのビーチにいた観光客はパニックになって逃げ出し、ロシアとクリミアをつなぐクリミア大橋に一斉に車で向かった。「ウクライナ人の復讐だ」と叫ぶ人もいた。
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