(5)想定される最悪のシナリオ
2022年6月21日、総務省は、「宇宙天気予報の高度化の在り方に関する検討会」が作成した報告書を公表した。
同報告書では、「極端な宇宙天気現象(エクストリーム・イベント)がもたらす最悪のシナリオ」を策定し、最悪の場合、以下の事象が生じると警鐘を鳴らしている。
さて、以下の想定される最悪シナリオは、100年に1回程度の頻度で発生する「極端な宇宙天気現象」の発生時に我が国において発生し得る最悪の被害の様相を「通信・放送・レーダー」「衛星測位」「衛星運用」「航空運用」「電力分野」のそれぞれの社会インフラの分野に分けて、被害の発生直後から2週間後までの被害の様相をとりまとめたものである。
以下は同報告書からの抜粋である
ア 通信・放送・レーダーへの被害がもたらすもの
①短波帯(HF)の通信は、発生直後から、全国的に使用不可となる状況が2週間断続的に続く。短波帯の電波を用いる船舶無線や航空無線、アマチュア無線の利用に多大な支障が生じる。
②VHF帯・UHF帯の周波数を使用する無線システムは、発生直後から太陽フレアの大規模爆発による電波雑音(太陽電波バースト)の影響を受け、昼間の時間帯に断続的に使用できなくなる期間が全国的に2週間続く。
このため、防災行政無線、消防無線、警察無線、タクシー無線、列車無線等の通信システムに多大な支障が生じ、これらを用いる都道府県・市町村・公共機関等の公共サービスの維持が困難となる。
③UHF帯の周波数を使用する携帯電話システムには、発生直後から太陽電波バーストの影響を受け、昼間の時間帯に最大で数時間程度のサービス停止が全国の一部エリアで2週間にわたり断続的に発生する。
④L帯の周波数を使用する衛星携帯電話(インマルサット、イリジウムなど)においては、断続的に通信回線を使用できなくなる期間が全国的に2週間続く。
⑤一部の周波数帯のレーダーについて、太陽電波バーストにより昼間の観測能力の低下が2週間にわたり断続的に発生する。
気象観測用・航空管制用・防衛用監視・船舶用および沿岸監視用レーダーなどの社会生活を支える公共用システムに多大な支障が生じる。
その結果、航空機や船舶の運航見合わせが発生し、安全保障分野にも影響が生じる。
イ 衛星測位への被害がもたらすもの
①電離圏等の変動や通信障害による基準局データの補強情報の受信不能により、測位精度の大幅な劣化や測位の途絶が全国的に2週間にわたり断続的に発生する。
②119番、118番に発信した際、通話が接続された緊急通報受理機関に対して発信者の位置情報を自動的に通知する緊急通報位置通知の精度が劣化し、緊急時の駆けつけが遅れる。
ウ 衛星運用への被害がもたらすもの
①衛星の電子機器異常や急激な帯電現象により多くの衛星になんらかの障害・不具合・故障が発生し、そのうち相当数の衛星はシステム機能の一部または全体を喪失する。
すべての衛星について慎重な運用を強いられ、安全モードへの移行により衛星の機能が2週間にわたり大幅に制限される。
②磁気嵐によって密度が増した大気による抵抗を受けるため、低軌道で運用される衛星については、衛星の軌道に異常が生じて軌道の予測が困難になり、他の衛星やデブリとの衝突するリスクが増大する。
また、大幅に軌道高度が低下し、相当数の衛星は大気圏突入により損失する。
③打ち上げの見合わせにより、衛星コンステレーションによる通信サービスのインフラ整備が遅れる。
エ 航空運用への被害がもたらすもの
①衛星測位精度が劣化したとしても衛星測位に頼らないシステムへの切り替えにより航空機運用は可能なものの、通常レベルの運航頻度を維持することができなくなる。
このため、全世界的に運航見合わせや減便が2週間にわたり多発する。
②航空機被曝については被曝後すぐに健康影響が出るようなものではないものの、高緯度領域での飛行に伴う搭乗員の人体被曝を避けるため、迂回航路を選択することに伴い飛行時間が長くなり消費燃料も増加する。
オ 電力分野への被害がもたらすもの
①電力系統においては、磁気圏じょう乱により地磁気誘導電流(GIC)が発生し、設備上・運用上の対策を措置していない電力インフラにおいては、保護装置の誤作動が発生し、広域停電が発生する。