(3)過去の被害事例

 次に、過去に太陽フレアなどが地球に引き起こした被害事例について述べる。

①1859年:キャリントン・イベント

 これまで記録された中で最大の磁気嵐は1859年9月に発生したもので、太陽フレアを目撃、報告した天文学者の名前から「キャリントン・イベント」と呼ばれている。

 1859年9月1日から2日にかけて記録上最大の磁気嵐が発生した。

 ハワイやカリブ海沿岸等世界中でオーロラが観測された。この時には、青森県弘前市や和歌山県新宮市でもオーロラが見られたという記録が文献に残っている。

 ヨーロッパおよび北アメリカ全土の電報システムは停止した。

 電信用の鉄塔からは火花を発し、当時まだ普及途中だった電信機器は回路がショートし火災が発生したといわれる。

②1989年:カナダのハイドロケベック電力公社の大規模停電

 1989年3月、Xクラス(注1)の大規模な太陽フレアが発生したことによって地球は深刻な磁気嵐に見舞われ、世界各地の社会インフラに甚大な被害を及ぼした。

 カナダのケベック州一帯では、ハイドロケベック電力公社の電力網のすべてが破壊され、大規模な停電が発生した。

 停電は9時間も続き、約600万人の生活に深刻な影響を及ぼした。

 また、米国の気象衛星「ゴーズ(GOES)」の通信が止まるなど、各国の様々な社会インフラストラクチャーが影響を受けた。

(注1)フレアの規模は、放出されるはX線の強度により5つのクラスに分類される。

 クラスは強い順からX、M、C、B、Aとなり、各クラスはそれぞれ10倍ずつの差がある。

③2003年:数十を超える人工衛星の機能停止

 2003年10月に史上最大規模の太陽フレアが発生した。

 一瞬にして日本の観測衛星を含む数十を超える人工衛星が、太陽の発する放射線によって機能停止あるいは機能喪失に遭った。

 その後の復旧措置で、多くの衛星は正常に戻ったが、いくつかの衛星の計測装置や実験機器は破損した。

 また、この太陽フレアによってスウェーデンでは1時間の停電が発生し、約5万人が影響を受けた。

④2012年:過去最大規模の太陽フレアの地球ニアミス

 2012年7月23日に発生した太陽フレアから放出された地球のそばをかすめた太陽嵐(プラズマ)は、1859年のキャリントン・イベントに匹敵するほどの威力を持っていた。

 幸い軌道からは免れたものの、もし直撃していれば、現代文明は破壊され、18世紀に後退させるほどの威力があるものだったと、NASAが発表した。

⑤2022年:スターリンク衛星40基が大気圏に再突入

 衛星コンステレーションによりグローバルなインターネット接続サービスを提供している米国スペースX社は、2022年2月3日、ケネディ宇宙センター(フロリダ州)から49機のスターリンク衛星を地球低軌道に打ち上げた。

 ところが、地磁気嵐によって密度が増した大気による抵抗を受けたため、そのうちの40機が大気圏に再突入し喪失したと発表した。

 この磁気嵐の影響を受けたのはスターリンク衛星だけではない。

 2021年12月以降、欧州宇宙機関(ESA)が2013年に打ち上げた地磁気観測衛星スウォーム(SWARM)3基のうち2基が異常なスピードで、地球に向かって降下し始めた。

 スウォームは、ISSより約30キロ高い高度430キロの軌道の2基と、それより高い高度515キロに1基の計3基の人工衛星から構成されている。

 2021年12月以降の急降下により、高度430キロ地点を周回する2基は非常に不安定な状態となったため、オペレーターは5月にリブーストを実施して高度を上昇させた。