戦争を知る僧侶へのヒアリングを急げ
本書で紹介したのは仏教界の戦争協力のごく一部にすぎません。いま、浄土真宗や浄土宗では戦時資料を収集し、調査してとりまとめる活動をしています。これらは、仏教者の間では共有され始めていますが、なかなか一般の目に触れることはないのが現実です。
いま各宗門が急いでやるべきことは、戦争を知る僧侶へのヒアリングです。とにかく、時間がありません。きちんと証言をまとめ、夏のお盆の時期には地域の寺院で檀信徒に向けて、語り継いでいくべきです。
――仏教ではありませんが、安倍晋三元首相の狙撃事件を契機に、新宗教である旧統一教会と政治家との関係が取り沙汰され、宗教と政治の距離が問われています。本来、どのような関係にあるべきだと思いますか。
鵜飼氏:新宗教の政治家への接近は最近始まったことではなく、やはり明治期に遡ります。明治に入り、外圧によって日本政府は条件付きで「信教の自由」を認めます。これをきっかけに、キリスト教が日本に根を下ろし、様々な新宗教が生まれていきます。
例えば、大本(教)は明治以降、政治家や軍部、新聞社などを取り込み、急拡大した教団です。しかし、天皇制とは相いれない教義を打ち立て、クーデターさえ起こす可能性があるとされ、大規模な迫害を2度、受けました。不敬罪や治安維持法が適用され、幹部や信者3000人以上の逮捕者と特高警察による拷問で16人の死者を出しました。教団施設は爆破・破壊されました。
宗教統制の必要に迫られた政府は1940(昭和15)年には「宗教団体法」を定め、信教の自由は失われてしまいます。日本は戦争に敗れその結果、GHQによる指導で農地改革が行われ、たくさんの農地を持ち、小作農を抱えていた仏教界や神道界は大打撃を受けます。
なぜ、GHQが寺院の農地を取り上げようとしたのか。GHQの対日宗教政策の責任者ウィリアム・バンスは、寺院を核としたムラ社会の解体を目指したのです。閉鎖的なムラのコミュニティが、異口同音に天皇賛美、戦時協力を唱えたからです。