未来志向で医薬の構造改革を進めよ
もう一つおかしなことは、「薬剤師が余る」といいながら、薬剤師の活躍の場は狭く限定していることだ。こちらは厚生労働省の問題だ。
わかりやすい例をあげればワクチン接種だ。米国などではドラッグストアで薬剤師が予防接種を打つのは当たり前だが、日本では許されていない。コロナワクチン接種が始まった当初、打ち手不足が課題とされ、「米国では薬剤師もやっているのだから日本でも可能にしては」との議論があったが、厚労省が頑として認めなかった。
薬学部(薬剤師養成課程)は、かつては4年制だったが、2006年度から6年制になった。医療技術や医薬品開発の進展などに対応し、また、米国などでは以前から6年制だったことを踏まえた改正だった。だが、せっかく6年制に改めたのに役割は狭く限定しているのだからもったいない話だ。
問題は、薬剤師に注射を認めるかどうかといったレベルの話にとどまらない。本質的には、医薬の構造改革が課題だ。
そもそも「医薬分業」は、13世紀に神聖ローマ帝国のフリードリヒ2世が毒殺を怖れて医師の処方した薬を別の人にチェックさせたことが始まりとされ、欧州で古くから制度化されてきた。要するに医療と薬剤それぞれの専門家によるダブルチェック体制だ。
だが、日本では歴史的経緯から分業があいまいで、院内処方が中心だった。結果として、医療機関で過剰に薬を処方する「薬漬け」問題が生じ、医療費拡大にもつながった。