問題は、その中に教育の質の疑われる学部が相当数あることだ。私は個々の学部の状況を評価できる立場にないが、少なくとも、定員割れの状況、薬剤師試験の合格率などのデータを見る限り、かなり問題がありそうだ。だからこそ文科省も問題視しているのだろう。
そうであれば課題は、質の劣る学部に退出してもらうことだ。退出が円滑になされないならば、政策的に退出を促進するメカニズムを設ける必要がある。もちろん、通学している学生に不利益が及ばないよう措置を講ずることは当然だ。
一方で、新規参入を拒む必要はない。一定の教育の質が見込めない新設計画は認可せず、質の高い新設計画は認可すればよいだけだ。レベルの高い新規参入がなされ、劣る学部は退出することによって、教育の質が向上するはずだ。
ところが、文科省が処方箋を書くと、なぜか「新設禁止」という話になる。いったん作られた大学・学部を守りたい理由があるからだ。
一度は進みかけた構造改革、いまは既得権保護に回帰中
実はこれは薬学部だけの問題ではない。背景をさかのぼって説明しておこう。
大学・学部全般について、古くは国主導で計画的整備がなされてきたが、1990年代になると少子化を背景に新設を原則認めない「抑制方針」がとられた。その代わり、いったん参入すれば助成金で守られた。
これが小泉内閣下で転換され、「新規参入を認め、その代わり、事後評価を行って退出もさせる」との方針が2002年に閣議決定された。競い合うことによってこそ教育の質が高まるとの観点だった。
その際、反対の強かった獣医学部などは例外として継続検討することになり、「新設禁止」のまま10年以上放置された。ここに安倍政権が国家戦略特区の枠組みを使って穴をあけ、猛反発を受けた結果が「加計問題」だった。あらぬ疑惑追及だったことは国会などでも繰り返し説明してきたので、ここでは触れない。
話を戻すと、例外分野を除く領域で、2002年に決定された大方針はその後どうなったか。結局、半分しか実行されなかった。新設はどんどんなされたが、退出メカニズムは不十分なまま、ごくわずかにとどまった。結果として、18歳人口が減少する中で、大学・学部の数は増え続けたのだ。
半分しか実行されなかった要因は、大学に文部科学省などの役人が天下り、利権共同体化してしまったことだ。2017年の文科省再就職規制違反事件でも、多くの大学に組織的に天下りを送り込んでいた実態が明らかにされた。おそらく天下り先を増やすことが大事になってしまったのだろう。
こうして文部科学省は「新設のみ進める」方針を続けてきた。そして20年の時を経て、今度は再び「古き既得権保護行政」に回帰しようとしている。これでは、教育の質は低下するばかりだ。