(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)

 米WTI原油先物価格はこのところ1バレル=110ドル前後で推移していたが、7月5日、景気悪化の懸念から約2カ月ぶりに100ドル割れとなった。

 原油価格(月間ベース)は昨年(2021年)11月以降、上昇を続けていたが、6月は下落に転じていた。

 原油価格は年明け以降、約40%上がったが、足元で市場は「供給不足」よりも「需要後退」の要因に反応するようになってきている。

「ない袖は振れない」湾岸アラブ諸国

 まず供給サイドの動向から見てみたい。

 世界の原油供給(日量約1億バレル)の4割を占めるOPECプラス(OPECとロシアなどの大産油国で構成)は6月30日、「8月の原油増産幅について現行の計画を維持する」と発表した。OPECプラスは6月2日に「7月と8月の増産目標をそれぞれ日量64万8000バレルにする」ことで合意していた。これにより、OPECプラスは2020年に合意した減産分(日量970万バレル)を今年8月までに完全に巻き戻すことになる。

 OPECプラスは世界の原油市場に大きな影響力を与える存在であることには変わりはないが、毎月発表されてきた増産目標は原油価格の抑制にほとんど寄与しなくなっている。増産目標と実際の生産量との差が広がり、「OPECプラスの増産の実現性は乏しい」との認識が市場に広まってしまったからだ。OPECプラスの5月の合計の原油生産量は増産目標を日量270万バレル下回る3920万バレルだった。