人気女優が暮らし、環境が良いはずの地域の露天フードコートに、テーブルの上の食べ残し、飲み残しを狙うホームレスが何人も来ていた、という話だ。彼女は十数年、そこに暮らし、しょっちゅう食事をしていたのに、そんな光景をこれまで見たことがなく、北京の貧困化が激しい勢いで進んでいることに気づいて、微信でつぶやいたのだ。首都の北京ですらこの状況ならば、地方は一体どれほどひどいことになっているのか、と。

 この原因についてはいろいろ言われているが、まとめると次のようになる。つまり、北京の半数近い人たちが「ゼロコロナ政策」によって行動制限を経験し、多くの企業が倒産し、物価が高騰し、出稼ぎ者たちの仕事もなくなり、家のローンを抱えている人たちがローンを返せなくなり、飲食店経営者もテナント料が払えなくなり、家賃を払えない人も続出し、その結果、北京で空前の勢いでホームレスが増えている、というわけだ。

 中国では物乞いは決して珍しくないが、台湾金馬賞最優秀助演女優賞をとった名のある女優の住む界隈でも増えてきた、というのが驚きだろう。

 さらに言えば、かつての物乞いはほとんどが農村からの出稼ぎ者だった。出稼ぎに来たが仕事を失って落ちぶれた者とか、農村には家も畑もあるが年老いて肉体的に農作業に従事できなくなった者が都会に来て物乞いを行う、といったパターンが多かった。それは、大都市で物乞いをする方が農村で貧困にあえぐよりましだったから、という側面もあった。2008年の北京夏季五輪の前、まだ「物乞い一掃キャンペーン」が始まっていないころに私が取材した北京の物乞いたちの中には、新参の物乞いを組織化し、まとめて上納金を集めて、不動産や車を購入している「物乞い成金」もいたくらいだ。

 だが、今、問題視されているホームレス急増は、家賃やローンが払えず家を追い出され、飢えて絶望している人々だ。しかも出稼ぎ者だけでなく都市の住民も多い。だから、多くの北京市民にとっては「明日は我が身」の惨状なのだ。

 その最大の原因がゼロコロナ政策だと考えているので、蔡奇の「今後5年、感染コントロール(ゼロコロナ)を常態化していく」という発言にブチ切れたのだった。それどころか、習近平の政治成果として喧伝されてきた「脱貧困」も実は大嘘で、貧困はむしろひどくなっているのだ。