(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)
※本稿は『定年後に見たい映画130本』(勢古浩爾著、平凡社新書)より一部抜粋し、加筆したものです。
わたしは子どもの頃から映画を見るのが好きで、読書なんかよりよっぽど好きだった。
わたしたち団塊の世代は、「名画」といわれるものが量産されていた時代でもある。「名監督」もたくさんいた。そしてわたしたちはなぜか、『灰とダイヤモンド』とか『王女メディア』『華氏451』『気狂いピエロ』など、「名画」といわれる映画を、だれに強制されたわけでもないのに、ある種の強迫観念のように、義務として見ていた。
いま考えれば、けっこうめんどくさい時代だった。映画は娯楽であり、同時に、勉強(教養)でもあったのだ。
現在でも、わたしは毎週のTSUTAYA通いがやめられない。おもしろそうな新作が入っていると、すこしうれしくなる。わたしはDVDを借りるときは5本まとめて借りるのがつねである。
映画は、それほどおもいしろいものの確率は高くない。5本借りたなかで1本でもおもしろいものがあれば儲けものである。2本あれば大当たりだ。5本すべてが全滅ということだってある。
それでも映画を見ることはやめられない。5本に1本ぐらい、おもしろいもの、美しいもの、雄々しいもの、潔いもの、強いもの、優しいもの、スカッとするもの、せつないもの、胸がジーンとするもの、を見ることができるからである。
このように、長年にわたって数え切れないほどの映画を見てきたわたしが、傑作と思う映画「ベスト10」を挙げてみた。
1 『七人の侍』(1954、207分)。黒澤明監督。黒澤明、橋本忍、小国英雄脚本。三船敏郎、志村喬、加東大介、宮内精二、土屋嘉男、津島恵子。
あらためていうまでもない傑作である。そのことでは衆目も一致することだろう。全編、たるんだ場面も冗長な場面もなく、207分間(3時間半)まったく飽きることなく、最後まで突き進むことができる。奇跡的なことである。
前半の侍探し、中盤の野盗に備える準備、そして後半の野盗との決戦といい、エピソードも笑いもはずれがなく、がらっぱち役の三船敏郎が村人相手におちゃらける場面など、だれのアイデアなのか、じつに見事である。黒澤映画の最高傑作である。まあ古今東西の全映画のなかでも最高だとわたしは考える。