オバマ大統領から大統領自由勲章を受けるシドニー・ポワチエ(2009年8月12日、写真:ロイター/アフロ)

(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)

 シドニー・ポワチエが亡くなった。94歳だった。デンゼル・ワシントン、ハル・ベリー、ウィル・スミスらが哀悼の言葉を述べた。世界中の映画俳優にとってもそうだろうと思うが、とくに黒人俳優にとっては、後進に道を拓いた功績もあって紛れもないレジェンドであった。

「黒人」俳優とわけることはよくないかもしれない。しかし、そういう意識はまだ残っており、ポワチエ以後、かれ以上の黒人俳優が出ていないことも事実である。

 もちろん人気度や出演本数でいえば、デンゼル・ワシントンやウィル・スミス、あるいはエディ・マーフィ、モーガン・フリーマン、サミュエル・L・ジャクソン、ウェズリー・スナイプスらは、ポワチエを凌ぐ。だが、映画俳優としての気品や輝かしさ(俗にいうオーラ)でいえば、だれひとりポワチエには及ばないのである。

 わたしの一方的な贔屓があきらかだが、いまでは日本でもシドニー・ポワチエを知る人は少ないと思われる。かれを知るのは大方、団塊の世代までで、下限でも60歳以上の人に限られるのではないか。

 シドニー・ポワチエは1967年に3作品に出ている。白人の女と黒人の男の結婚を描いた『招かざる客』(スタンリー・クレイマー監督。佳品)と、高校教師を演じた『いつも心に太陽を』(ジェームズ・クラヴェル監督。ルルが歌う主題曲「To Sir with Love」がよかった)、それにポワチエ最大のヒット作となった『夜の大捜査線』(ノーマン・ジュイソン監督)である。

『招かざる客』に出演したシドニー・ポワチエとキャサリン・ホートン(写真:AFLO)

 その後もいくつかの映画やテレビドラマに出ており、何作か監督もしたようだが、日本のファンにはなじみがない。少なくともわたしは『夜の大捜査線』以降、かれの新作映画を見ていない。つまり、50年以上日本のファンの前からは消えている印象で、ほとんどの人が知らないのも無理はないのである。