(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)
「昭和の曲もいいな」と若い女性がいった。1月19日放送のTBS『この差って何ですか? 「昭和ポップス」と「平成ポップス」の差(カバー回数ランキング編)』という番組のなかである。
昭和ポップスの魅力に気づいただけでも偉いというべきだが、いうまでもなく昭和の曲は、無数の名曲で満ちている。議論の余地はない。しかも日本だけではない。1960年代、70年代は世界的にも名曲が続々と出現した時代である。
名曲とは一にも二にもメロディである。いつまでも記憶に残る、傑出した美しいメロディが生み出されたのである。だから当時は全国民的ヒット作や全世界的ヒット作というものがあった。
が、いつのころからかそういうことがなくなってしまった。メロディに興味がなくなったのか、それともメロディを作れなくなったのか、ラップに象徴されるように、大衆音楽はリズム主体になったようなのである。
他方、「アイドル」グループなるものが乱立するようになり、歌自体の価値というよりも、ビジネス価値が優先されるような風潮が出来上がってしまった。NHKまでがAKB48の「総選挙」を国民的関心事といい、ニュースで報じる始末であった。
昭和ポップスが大ブーム!?
考えてみれば、文学はまず古典を読むのがあたりまえとされていて、だれも疑わない。クラシック音楽や絵画にしても、昔の作品を聴き、見るのが常識である。むしろ現在のものより、古典のほうが価値は高い。
それが歌謡曲やポップスという大衆音楽になると、まったく逆になる。昔の曲はよくて無関心、下手をすると、古臭いと軽蔑の対象になる。昔、父母がよく「懐メロ」番組を見ていた。わたしはいつもどこがいいんだろうと思っていたが、おかげで一世代、二世代前の懐メロをたくさん覚えたものだ。
ところが『この差って何ですか?』という番組によると、「じつはいま若者に昭和ポップスが大ブーム」だという。まあテレビの常だから「大ブーム」は誇張だろうが、若者たちは、平成の人気歌手たちがカバーしたことがきっかけで昭和の曲を知るようである。
たとえば、上白石萌音による「あなた」(小坂明子)、いきものがかりによる「木綿のハンカチーフ」(太田裕美)、EXILEによる「銀河鉄道999」(ゴダイゴ)など。そのほか、法律事務所が寺尾聰の「出航 SASURAI」をCMに使い、視聴者から「この歌を教えてくれてありがとう」といった声があがり、話題になった。