写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ

(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)

 10月4日、テレビ朝日の「報道ステーション」の司会が、NHKを定年退職した大越健介キャスターに替わった。それ以前からテレ朝は大越の司会就任を大々的に宣伝していた。本来なら大越の退職は8月のはずだったが、それを2か月前倒しして6月30日に退職した。そのわずか10日後の7月9日、早々に「報ステ」のメインキャスターに就任することが正式に発表されたのである。

 テレビ朝日局内には“激震”が走り“蜂の巣をつついたような騒ぎ”になったという。ごく一部の番組関係者しか知らされていなかったのである。色めき立ったのはテレ朝だけではあるまい。他のキー局はもちろん、とくにNHK内部では、「聞いた?」とこのニュースが駆け巡り、その話でもちきりになったことは容易に想像される。

大枚をはたいて大越氏を取りたかったのは

 このニュースを聞いたとき、わたしが真っ先に思ったのは「なんだ、民放はいまだに元NHKが欲しいのか」ということだった。情けない。まだNHKは民放より上という意識があるのか。そしてこんなヘッドハンティングはテレ朝の手柄になるのか。

 さらに、事前に大越とテレ朝の間でどこまで話が進んでいたのかとか、現在の報ステのアナウンサーたちは「大物」にはじき出されてあちこちに異動させられるのか、などと思った。だが、結局は「関係ない人間にとってはどうでもいい話だな。所詮、コップ(テレビ業界という特殊社会)のなかの嵐にすぎない」というところに落ち着いた。

 テレビ朝日の早河洋会長は9月28日、定例会見に出席して、このように期待を語った。「大越健介さんをお迎えした『報道ステーション』に大きな期待をしています。NHKでの政治取材や、特派員経験、またニュース番組のアンカーとして積み重ねた取材力とテレビ報道の表現力を発揮していただき、1985年スタートの『ニュースステーション』以来22時台という時間帯のトップレベルを走り続けてきた歴史的な戦略ゾーンをさらなる高みに導いてくれるものと確信しています」(「「報ステ」新キャスター大越健介さんは「22時台という歴史的な戦略ゾーンをさらなる高みに導いてくれる」テレ朝会長が期待」、中日スポーツ、2021年9月28日、https://www.chunichi.co.jp/article/338030)。