ボディアーマー用ベストをフル生産する民間の縫製工場

 元内相は「新しいウクライナで大きなポストをあなたのために用意している」と取引を持ちかけてきた。ビルクル氏は即座に拒絶した。

「14年にロシアに逃亡し、プーチンに協力する人もいるが、全体としてみれば大きな規模ではない」。ロシア軍は一時、数百メートルまで迫ったが、現在は50キロメートルまで押し返し、隣接のヘルソン州の25の村を奪還した。

 ビルクル氏の右腕で親日家セルギー・ミリィウチン副市長は彼のことを「将軍」と表現する。その「将軍」の下、ロシア軍の北進を食い止める“対ロシア要塞線”と化したクリヴィー・リフの産業は事実上の総動員体制下にある。しかし法的な強制ではない。自由と民主主義を守ろうとビルクル氏を中心に地域が一つに団結したのだ。

ボディアーマー用ベストや軍服作りを指揮するビクトリアさん(筆者撮影)

 ロシア軍が長距離ミサイルで攻撃してくる恐れがあるため場所は明らかにできないが、通訳のアントン氏の案内で民間のアパレル縫製工場を訪れた。2月24日まではTシャツやジーンズ、婦人服を作っていた。ビクトリアさんは5分遅れて生まれた3Dデザイナーの妹とともにこの工場で働いている。勤務歴20年。夫は地元の領土防衛隊に参加している。

「翌25日から前と後にそれぞれ4キログラムの鋼鉄板を入れる北大西洋条約機構(NATO)仕様のボディアーマー用ベスト(防弾ベスト)の生産に切り替えました。薄くて軽い婦人服の素材と、分厚くて丈夫なボディアーマー用ベストの素材は全然違うので戸惑いました。婦人服は6つのパーツでできますが、軍服には92ものパーツがあるんです」とビクトリアさんは説明した。