わが国では約20年前に日本心臓病学会で天野惠子氏がその概念を紹介したことがきっかけとなり性差医療が広まってきた。2001年には鹿児島大学附属病院に日本初の「女性専用外来」が誕生し、以降全国に女性外来や性差医療外来が広がった。天野氏は2002年に性差医学の教育と学際的研究の促進を目指して日本性差医療・医学研究会を発足、2008年には日本性差医学・医療学会へと発展した。2005年には政府による男女共同参画基本計画の取り組みの一つとして「性差に応じた的確な医療である性差医療を推進する」と明記され、社会の中でも理解が進みつつある(*1,*2,*4,*5)。

女性にはダイナミックな「ホルモン変動」がある

 まず、性差医療における前提として、性別によってライフサイクルが大きく違うということを挙げておかねばなるまい。

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 女性のライフサイクルが男性のライフサイクルと異なる点はダイナミックな「ホルモン変動」の存在である。毎月の生理周期でもホルモンの変動が起こり、さらに一生を通じた女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)の変化は女性の健康に大きな影響を及ぼす。

 エストロゲンの分泌は思春期に急激に上昇し、18歳を過ぎたころから性成熟期に入る。その後、35歳くらいから低下し始め、40代で一気に低下し、閉経を迎えるとほぼ分泌されなくなる(*6)。エストロゲンは性ホルモンとして妊娠・出産にかかわる様々な役割を担うだけでなく、調整ホルモンとして多様な作用を持っている。例えば、コラーゲンの破壊を防ぐ、皮膚のうるおいを守る、骨が作られるのを促進し、カルシウムが取り込まれるのを助ける、LDLコレステロールを抑え、HDLコレステロールを増やす、血液を固まりにくくする、などである。

 更年期(閉経の前後約10年間)にエストロゲンの分泌が低下すると月経不順、顔のほてり、のぼせ、手足の冷え、動悸、めまい、抑鬱、不眠、頭重感、疲労感、肩こり、腰痛、関節痛、手足のこわばりなどの更年期症状を呈する。また、さらに年齢を重ねるとエストロゲン欠乏に伴う動脈硬化、骨粗鬆症などが問題となってくる。

 男性ホルモンであるテストステロンはエストロゲンのような急激な低下ではなく緩やかに分泌が低下することが知られている。女性は一生を通じたダイナミックなエストロゲンの分泌の変化と毎月のホルモンサイクルの両方に影響を受けていることを女性自身も理解することが重要であろう。

 その上で、病名のよく知られた疾患の中にも、男女に臨床経過の差があるものがいくつかある。

新型コロナウイルス感染症の重症化率にも性差が

 まずは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)だ。COVID-19は男性の方が女性よりも重症化率や死亡率が高いというデータが世界各国から示されている(*7,*8,*9)。その最大の要因は病原体を排除する免疫反応の強さに性差があることとされている。また、免疫力に対する性ホルモンの影響、喫煙率や生活習慣病の有病率の違い、社会的環境の違い等の様々な要因が示唆されている。一方、感染防御反応、ワクチン接種後の抗体産生から自己免疫疾患に至るあらゆる免疫反応は、男性より女性の方が強く出る傾向がある(*10,*11)。

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