旅先で知り合い、一夜をともにした女性を詠った句も数多くある。

木がらしや二十四文の遊女小屋

 木枯らし吹く寒空の中、粗末な小屋から最下等の遊女たちが客を誘う光景を表わしたものだが、二十四文は現在の600円。

 蕎麦1杯の値段で身体を売らなければならない、娼婦たちの過酷な現実を映し出している。

 時代を問わず、たいていの男は自分の収入に応じて、分相応に女郎買いをするものだが、一茶の敵娼(あひかた:客の相手となる遊女)は、道ばたの客を引く街娼の一種・夜鷹の女が主な対象だったようだ。

 夜鷹とは夜に寝むしろを敷いて野天、または仮小屋で売春した女性たちのことで、岡場所などで通用しなくなった40歳から60歳と古媼(ふるおうな)が多かった。

 梅毒など悪性の病気持ちがほとんどだった。

女郎花あっけらかんと立ちにけり

夕顔にほのぼの見ゆる夜鷹哉

玉露夜鷹は月に帰るめり

さらぬだに月に立待惣嫁哉(たちまつそうかかな)

 などは、一茶が路上で客を引く夜鷹を、親しみを込めて美しく詠い上げたものだ。

 最後の句にある「惣嫁」という表現は「哀れだが美しい」という意味合いがあり、夜も更けた静けさの中、可憐だが不憫な女郎が月の光の中で立っている様子を表現している。

 夜鷹に対し、舟で商売する格安の娼婦を「船まんじゅう」といった。

 河岸場や橋の袂に小舟を留めて、川べりの道をぶらついている男に「ちょった、あんた、遊んでいきねぇ」と声をかけ、舟に招いて春を鬻(ひさ)ぐのである。