私は当時、日本外務省から参加していたある外交官から、こんな興味深い話を聞いたものだ。

「北朝鮮代表団を見ていて、不思議なことがあった。前面に座る外交官たちよりも、後方で英語に通訳する女性の方が偉そうにしているのだ。何だあの謎の女性は、という話で持ちきりだった」

金正恩氏の英語の家庭教師だったとの説も

 一説によると、外務省北米局副局長に昇進した2010年頃、金正恩総書記の英語の家庭教師を務めていたという。金正恩氏が後継者となって5年後の2016年に、北米局長に就き、2018年に副大臣となった。

 チェ・ソンヒ副大臣に厚い信頼を置いていた金正恩総書記は、「世紀の会談」と呼ばれた2018年6月12日の米朝首脳会談で、実質上の実務責任者を任せた。

2018年6月11日、翌日に控えた米朝首脳会談を前に、最終協議を行うためシンガポールのリッツカールトンホテルに到着した崔善姫副外相(中央。写真:YONHAP NEWS/アフロ)

 当時、私もシンガポールで取材したが、ドナルド・トランプ大統領と金正恩総書記の「12秒間の握手」を演出したのは、マイク・ポンペオ国務長官と、チェ・ソンヒ外務副大臣だった。それほど彼女は圧倒的な存在感を放っていて、彼女が姿を見せると、北朝鮮関係者たちに緊張感が走った。

 2019年2月27日、28日にハノイで行われた2回目のトランプ・金正恩会談でも、北朝鮮側を仕切っていたのは彼女だった。だがこの会談は、周知のように「ノーディール」で、「世紀の決裂」と報じられた。