コロナワクチンを接種していたとされる金正恩総書記(写真:ロイター/アフロ)

(郭 文完:大韓フィルム映画製作社代表)

「コロナ丸太」とは、北朝鮮特有の言葉で、新型コロナワクチン開発のための臨床実験対象者のことだ。最近、北朝鮮では新型コロナの変異ウイルスが猛威を振るっているが、北朝鮮はコロナ対策に関わる国際社会の支援さえ拒否している。

 なぜ北朝鮮は国際社会の支援を拒んでいるのか。北朝鮮独自のコロナ防疫の実態を見ていこう。

 北朝鮮は、2020年初頭に中国・武漢で新型コロナが発生するや否や国家非常防疫体制に切り替え、強力な国境封鎖措置を講じた。その後、2020年8月には、全体で70条にも及ぶ「非常防疫法」を公布している。

 その内容は、「伝染病発生時には、中央非常防疫指揮部を組織すること」「防疫体制の確立と伝染病の危険度に伴う非常防疫等級の設定」「非常防疫体制における秩序を破った者と機関に対する法的制裁および処罰」「在北朝鮮外国人に対しても同じように適用すること」などである。

 同時に、北朝鮮全域の病院と保健所にも、保健省1局名義の緊急指示が下された。ある医療検査データに符合する臨床実験の対象者を急ぎ選抜するように、という極秘指令である。

 保健省1局とは、金正恩一家のためだけに作られた特別部署で、保健省が輸入する医薬品と医療機材の50%以上がここで使用されている。保健省1局が管轄する病院は、金一家の治療を専門に担当する「奉化(ポンファ)診療所」、臨床実験病院の「朝鮮赤十字総合病院」、北朝鮮の高位級幹部のための「南山病院」の3カ所だ。

 新型コロナが蔓延し始めてからしばらくして、米国をはじめとする世界で多様な種類のコロナワクチンが開発されると、保健省1局はすぐさま人員を派遣し、ワクチンを購入した。国民のために大量購入したのではなく、金一家と彼らの側近、および最高位職幹部のためだけの、最小限の分量を密かに持って帰って来たのだ。

 興味深いのは、中国シノバック製ワクチンと、ロシア製ワクチン「スプートニク」は、ここに含まれなかったということだ。

 保健省1局が持ち帰ってきたのは、あくまでも米国や英国で製造されたファイザーやモデルナ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ノババックス(武田薬品工業ワクチン)、アストラゼネカなどのワクチンである。