たとえば、コロナ禍で加速するDX(デジタルトランスフォーメーション)のスマートシティ構想などは、受け身のウェルビーイングといわれています。町や地域コミュニティが提供してくれる機会とソリューションによって、ウェルビーイングを実現していくイメージです。

安藤 受動的なウェルビーイングはヒントかもしれません。最近だと“共助”という言い方になりますが、スマートシティがテクノロジードリブンになりがちなところを、主体を人に戻すというか・・・。自分がどうコミュニティに貢献できるか考える機会になりそうです。

藤田 DXでは、オンライン診療のような非接触の技術も進化しました。これは新型コロナウィルスなどの感染リスクは低減させるかもしれませんが、受診で人との交流を図っていた高齢者にとっては機会を奪うことにもなりますね。

安藤 たしかに現実的な世界における人との交流は必要ですし、自分のコミュニティなど近いところでの共助は感じていたいですよね。

 最近、Aug labでは、「cocoropa(ココパ)」というロボットを開発しました。cocoropaは触れると手を上げるロボットなんですが、仕組みは超シンプルで、外出から戻って「ただいま」とcocoropaに触れると遠方の家族のcocoropaも手を上げ、逆に遠方の家族が「おかえり」と触れると自分側のロボットの手も上がるというもの。単にこれだけですが、実証実験ではユーザーからポジティブな感想が返ってきました。相手と親密になった気がするとか、離れていても一緒にいる感覚とか、いわゆる“共在感覚”ですね。

 今までは同じ空間にいないと感じられなかったものが、テクノロジーやデザインを使うことで離れていても実現できるんです。

藤田 日本のウェルビーイングは、社会背景が全く異なるアメリカのそれとは異なる独自のものでなければならないと思います。人々がそこにお金を払ってもいいと思えるビジネスエコシステムを本気で創造していかないといけない気がします。

安藤 ビジネスチャンス、ですね!

対談を終えて(by 藤田 康人)

 ウェルビーイングは、いまだ社会実装していく上での文脈があいまいです。この連載は、日本のマーケットの中でウェルビーイングビジネスを推進させるための成長指針を求めて、ウェルビーイングの実践者たちをたずねる旅でもあります。

 Aug labは先端技術を駆使し、人にきっかけやつながりをもたらすことに成功しました。それはまだ確固たる成長戦略の上に成り立つものではありませんが、人の心に働きかけることができます。これこそ、あるべきウェルビーイングの姿に向けたメッセージではないでしょうか。

 人と人との物理的距離や空間を埋めること、そして時間軸を超えていくこと。これらにわが国の技術と創造性を統合させることで、本来的なウェルビーイングの夜明けを迎えることができると感じています。

◎安藤 健氏
 パナソニック ホールディングス株式会社ロボティクス推進室室長。博士(工学)。早稲田大学理工学術院、大阪大学大学院医学系研究科を経て、2011年にパナソニック入社。ヒト・機械・社会のより良い関係に興味を持ち、一貫して人共存ロボットの研究開発から事業開発まで従事。自己拡張技術によるWell-beingの実現を目指すAug Lab、オープンイノベーションによりロボティクス事業創出するRobotics HUBの責任者も務める。日本機械学会ロボメカ部門技術委員長、経済産業省各種委員、ロボットイニシアティブ協議会副主査なども歴任。ロボット大賞経済産業大臣賞、文部科学大臣表彰若手科学者賞、IROS Toshio Fukuda Young Professional Awardなど国内外での受賞多数。

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