プーチン拘束の前に立ちはだかるハードル
浅田:このあたりが大きな問題です。まず、ロシアはICCの非締約国です。協力義務はなく、当然、現体制のもとでは協力しません。
では、プーチン氏がICC締約国に行けば必ず拘束されるかというと、過去にはそうならない例がありました。ジェノサイド罪などで逮捕状が出されたスーダンのバシル大統領(当時)です。
バシル氏には2009年に逮捕状が出されましたが、その後、他国での国際会議に出席しています。ICC締約国のマラウイやチャドといった国々を訪れましたが、そのまま自国へと帰りました。
拘束をしなかったマラウイやチャドは協力義務違反で、実際、ICCによってそのような認定が出されていますが、拘束する側とされる側の関係から、拘束に二の足を踏む国もあります。義務違反と両国関係を天秤にかけ、やっぱりやめておこうとなったということです。
ICCに欠席裁判はありませんから、本人が出廷しない限り裁判は開かれません。「世界のお尋ね者」という烙印は押されても、拘束されて裁判になるかというと、なかなか難しいのが現状だということです。
──逮捕状が出されながら適切な処罰にまで至らないのはやりきれませんが、国際法や国際機関の実効性をどう考えますか。
浅田:公正な立場から判断して逮捕状を出す、という点に意義があるのだと思います。
ICCは、旧ユーゴスラビアとルワンダの国際刑事裁判所をきっかけに、常設の裁判所として誕生しました。旧ユーゴ、ルワンダの両事例のように、紛争後に設置される裁判所には、どうしても紛争当事者に対する制裁の一環という意味合いが含まれます。
公正な裁判所から出される逮捕状は、世界の多くの国々にとって、重大な犯罪行為が行われた確率が極めて高いと知らしめる客観的な材料になります。
例えば、4月7日にあった国連人権理事会におけるロシアの資格停止をめぐる決議は、賛成93、反対24で可決されました。ですが、反対、棄権、欠席を含めると、その数は100に上るのです。
こうした国々は必ずしもロシア支持というわけではなく、まだ調査途中の段階で資格停止を決議する必要はないのではないか、というスタンスもあります。100%の確信がない国々もある中で、公正な裁判所が世界的な指名手配のような形で逮捕状を出すということになると、かなり大きな意味を持つわけです。