ドイツにも100円ショップに代わる「ユーロショップ」があるが、T君にとっては助けにはならなかった。そもそもあちこちに店舗があるわけでもなく、安い文具やおもちゃ、菓子などが売られていても、使い捨てのスプーンやフォークなど気の利いた商品を揃えているとは限らないからだ。不断の企業努力で商品開発・改良を重ねた商品が、いつでもどこでも安い価格で手に入るという日本の便利さとは隔世の感がある。
では、ドイツも日本の便利さを見習うべきなのか。
実は、決してそうとは言い切れない。日本の小売業態が当たり前のサービスとして行っていることが、回りまわって環境に負荷を与えることにもなっているからだ。
T君たちが箸を使い回ししたのも、プラスチック製品を手軽に手に入れられる便利な店舗が近くにないためだが、そもそも彼らの生活や考え方そのものが「使い捨て」には大きく依存していない。
一方、環境意識が高いドイツには、消費者が不便に耐えることが環境負荷削減の第一歩になる、という認識があるのかもしれない。だからこそ、使いにくい紙製ストローや木製フォークに対しても文句を言わず、「環境にいいね」と歓迎するのだ。
筆者は帰国後、取材に協力してくれたT君に宛てて、日本の100円ショップで箸と箸箱を買って送った。毎日それを大事に使ってくれているという。