文=渕上 里実
プラスチックメーカーのデザイナーが考える海洋プラゴミ問題
「ものを大事にしましょう」という教えは、昔から言われていることですが、すぐに替えが利くようなアイテム、例えばプラスチック製品を長年に渡って大切に使用している人がどれほどいるのでしょうか。もちろん、そこがプラスチックのメリットでもありますが、「buøy(ブイ)」というブランドは、”プラスチック製品にも使い捨てではなく、工芸品の一点物のように思い入れを持って欲しい”という願いを込めて、海洋プラスチックゴミから製品を作っています。このbuøyを製作しているのは、株式会社テクノラボ。プラスチック製品の商品開発を手掛ける会社です。
現在、海洋プラスチックゴミ問題をはじめとする環境問題によって、世間からは、プラスチック=悪というイメージがついてしまっています。そんな中、プラスチックメーカーが海洋プラスチックゴミを使ったブランドをなぜ開発したのか、buøyのブランドマネージャー兼デザイナーを務める田所 沙弓さんにお話をうかがいました。そこには、プラスチックメーカーとして、海洋プラスチックゴミ問題解決に対する熱い想いがありました。
buøyの誕生ストーリー
昨今のプラスチックゴミ問題には、世界中の人が危機感を持っています。もちろんテクノラボでも、プラスチックメーカーとしてこの問題に対して何かできないかという議論が起こっていましたが、10名程の小さな会社が解決できるような問題ではないため、どうするべきか苦慮していました。そんななか、田所さんはプラスチックの可能性を広げられる様々な研究を進めていたといいます。
「私の中では、環境問題解決というより、プラスチックの可能性をもうちょっと広げられる研究ができたらいいなと常に思っていました。最近、プラスチックに対する風当たりが強いですが、魅力について再度深掘りしてみたのです。本当にプラスチックは無くなるべきなのか?他の何かの原料にすることは不可能なのか?既存のプラスチックの魅力と思われている以外のことを色々と深掘りしてみたのです」
そして、研究を進めていく中で、社内の意見も取り入れ、海洋プラスチックゴミ問題を絡めることになりました。
「海洋プラスチックゴミ問題について上から目線ではなく、別のアプローチ方法での啓蒙活動ならば、テクノラボのような小さな会社でも出来るのではないかと思いました。そして、2~3年かけて出来たのが、海洋プラスチックゴミを原料とするブランド「buøy」なのです」
buøyの原料となる海洋プラスチックゴミは、テクノラボのある神奈川県の海岸で、ビーチクリーンをして集めた海洋プラスチックゴミが使われています。
「集めた海洋プラスチックゴミを見てみると、潮や日光で劣化しているので、プラスチックの種類によって分別することは、とても現実的ではない、というのが正直な感想でした」
ということで、田所さんはプラスチックメーカーとしては型破りな方法である、プラスチックの種類を分けずに混在した状態で成形するというアイデアを選択しました。この決断により、buøyは独特なマーブル模様が特長の製品となっています。これは、プラスチックの種類によって溶ける温度が異なるため、狙った模様になることはなく、すべてが偶然に生まれる模様となるからです。
現在は、雑貨を載せるトレーやコースターを製作し、販売しています。そこで、色鮮やかなマーブル模様であることから、食器も製作すれば食品が映えるのでないか、と質問してみました。
「海洋プラスチックゴミは海洋を漂っている間に有害物質を吸着している可能性がありますが、buøyは表面をフィルムでコーティングしているので、海洋プラスチックゴミに直接は触れないようになっています。ですが、ゴミを使って食器を作るという海洋プラスチックごみのイメージと逆行するようなプロダクトに無理に挑戦する必要はないと考えています。プラスチックの特性を活かしつつ、海ゴミの現実もしっかり感じられるプロダクトにしたいと思っています」
海洋プラスチックゴミ問題は遠い問題?
日本でも2019年7月より、プラスチック製レジ袋が有料化になったことで、海洋プラスチックゴミ問題を知った人もいるかと思います。この問題に対して『地球にとって良くないことだとは思うが、身近に感じられない』という人も多いのではないでしょうか。田所さんも実際にビーチクリーンを始めるまでは、そうだったと言います。
「神奈川で暮らしていて、海洋プラスチックゴミと言われていても現実味を感じていませんでした。湘南などのビーチに遊びに行っても、海、綺麗じゃんって思っていました。しかし、ビーチクリーンを始めてみると、湘南のビーチであっても、たくさんマイクロプラスチックが混ざっていたのです。今まで見えていなかったものが、急に見えるようになったということに驚きました。それまで、あまり現実に感じていませんでしたが、こんなに足下まで海洋プラスチックゴミが来ている!という焦りが出てきましたね」
田所さんは自身のことを踏まえ、buøyはデザインを優先することで注目してもらい、その原料がゴミであること、神奈川でもこんなに海洋プラスチックゴミが取れることを知ってもらう。そして、自分でもプラスチック問題を調べてもらえるようなきっかけとなれば、と思ったそうです。
そしてbuøyの今後についてお聞きしたところ、まず直近では、日本海側のビーチクリーン団体と協力し、OEMとして製品を作るプロジェクトを始めていることを教えてくれました。このプロジェクトで日本海側のビーチクリーン団体と協力する理由は、太平洋側と比べ、漂着する海洋プラスチックゴミが大型で量も多いため、マイクロプラスチックになる前に食い止めることができるからだそうです。また、将来的には、各地のビーチクリーン団体を支えられる仕組みを作りたいと考えているそうです。
「海洋プラスチックゴミが漂着するが、ビーチクリーンを行う人が少ない過疎地域などで、ビーチクリーンを仕事として成立させることで過疎地の経済を支援していければと思っています。そして、最終的にはプラスチックゴミが減少し、プラスチックゴミに関するシステムが変化することで、海洋プラスチックゴミが回収できなくなり、buøyが作れなくなることがゴールですね」