文=渕上里実
地球環境に配慮した事業にシフト
2015年に国連で採択された通称「SDGs(Sustainable Development Goals)」は、経済、社会および環境における持続可能な開発をバランスの取れた方法で目指すもので、今や国内外問わず、企業にとって避けては通れないものとなっています。そのため、現在、多くの企業が地球環境に配慮した事業にシフトしつつあるのです。
モンドデザインの堀池洋平さんは、今ほど積極的に取り組む企業が多くなかった2006年から、廃棄物をアップサイクルした商品を作り続けており、2020年には、廃棄されたビニール傘を使ったブランド「PLASTICITY(プラスティシティ)」をクリエイター齊藤 明希さんと発表。多くのメディアで取り上げられ、注目を集めています。そのお二人に話をうかがいました。
現在、モンドデザインでは廃棄タイヤチューブをアップサイクルして鞄や財布を作るブランド、「SEAL(シール)」を手掛けています。でも、最初から廃棄タイヤチューブを使おうとは考えていなかったといいます。
「廃材を使って何かを作ろうというのが最初にあって、廃材をいろいろ探していたんです。建築現場のシートやウェットスーツなど、タイヤチューブもその中の一つでした。いろいろ試した結果、総合的一番良かったのでタイヤチューブにしました。ウェットスーツの生地も良かったんですが廃棄量が少なく、建築現場のシートは廃棄量は多いけど、加工したら何の変哲もない素材になってしまったので」
創業した当初は廃材を使ってモノを作っているところはなく、各工程で協力してくれる人や企業を探すことが大変だったそうで、10~20社電話して聞いてやっと1社試してもらえるといった状況。そんな地道な努力の甲斐もあって、今ではSEALの店舗を表参道や横浜にかまえるまでの人気商品となったのです。
商品のすべてが一点もの
そして「PLASTICITY」ですが、2019年に斎藤さんがビニール傘をアイロンで圧着した作品を出展していた展示会に堀池さんが足を運び、その使い方に惹かれたことがきっかけだったのです。
PLASTICITYは、まず、材質、サイズ、厚みが異なるビニール傘を人の手で選別、解体、洗浄し、生地として再生させます。次に、その生地を何層にも重ね、独自のプレスを行うことにより、透明な窓ガラスに流れる雨のような表情が現れます。そして、プレスされた生地を国内の熟練した職人の技術により縫製され、生み出されてるのです。そのため、全く同じ商品は一つもなく、どれも一点ものとなっています。
「生地として再生させたビニール傘をそのまま圧着すると安っぽくなってしまうため、しっかりと圧着し、かつ素材の良い質感を残すことに苦労しましたね。プレスして良い状態になる条件を見つけるのに1000回くらいはテストしています」
その製品は、サコッシュバッグやトートバッグなど日常的に使いやすい。しかも、色もホワイト・クリア、柄のついたビニール傘をいかしたカラーモデルなど、ビニール傘から作ったとは思えないデザインとなっています。
「全ての商品に対して、リサイクルとかエコだけではなく、機能や価格、デザインなどを優先させることをここ10年くらい続けています」
そこがモンドデザインの手掛ける商品のこだわりとのことです。
10年後になくなるべきブランド
また、PLASTICITYは「10年後になくなるべきブランド」と謳っています。その強烈なコピーを考案したのは生みの親、斎藤さん。そこに込められた思いをうかがいました。
「もともと、展示会の時点でブランドとして出展したかったのでブランド名とそれに合わせたキャッチコピーを作りました。キャッチコピーは、自分の考えを凝縮したものとなっています。PLASTICITYで世の中がどんな変化をするかわからないけど、私たちが素材として使っているビニール傘が簡単に手に入る状況が変わっていたら良いなと思っています」
PLASTICITYの取り組みは、他の企業からも注目されています。住宅、オフィス、商業施設、公共施設など、様々な空間の提案を行っている「カッシーナ・イクスシー」とのコラボレーションも実施され、サコッシュバッグの内装には、家具やカーテンの制作で余った残布が再利用されています。他にも海外の化粧品メーカーから声がかかったり、オンラインストアで海外の人が個人的に購入したりと、注目度もまさに世界に広がってきているようです。
最後に、お二人にこれからの展望をお聞きしたら、堀池さんからは企業人らしい考えが返ってきました。
「PLASTICITYに限らず、海外の人にもっと使って欲しいと思っています。廃棄タイヤチューブをアップサイクルしたブランドSEALは、そのために、5年くらい前には香港に出店したり、ヨーロッパの方で販売したりしています。これからは、日本の職人さんによって生まれた製品を海外に広めることを強化したいですね」
一方、斎藤さんはクリエーターらしく、製品そのものにフォーカスしています。
「今プラスチックでできているものがPLASTICITYの素材で代用できないか、いろいろ試してみたいと思っています。バッグ以外の製品も作っていきたいですね」