2017年、囲碁AIの「アルファ碁」が中国・柯潔九段に3局全勝し、世界を驚かせた(写真:ロイター/アフロ)

囲碁界をざわつかせた若きタイトルホルダー

 2021年末、囲碁界に激震が走った。ポスト井山裕太の筆頭として挑戦手合の舞台に立ち続けている一力遼天元(当時)が、プロになって5年もしない四段の若手に負けてタイトルを獲られたからだ。

 若手の名は、関航太郎。まだ20歳になって数日、史上2番目の若さで七大タイトルのひとつ「天元」位についたのだから、囲碁界がざわついたのも当然だ。それまで関天元は新人王戦で優勝するなどの活躍もあったが、トップに躍り出るのには、まだまだ時間がかかると見られていた。

 それなのになぜ、こんなに早く成長できたのか。関天元の勉強方法を聞いてみると、驚くべきことが分かった。AIを使って独自の研究方法をとっていたのだ。後に「AIソムリエ」と呼ばれるようになった所以である。

「AIソムリエ」と呼ばれる関航太郎天元

人間の盲点をつく発想を披露する「囲碁AI」

 人類に勝てる囲碁AIが初めて登場したのは、2016年のこと。Google DeepMind(グーグル ディープマインド)社が開発した「アルファ碁」が世界ナンバーワンの李世ドル九段(韓国)、柯潔九段(中国)に勝って全世界に衝撃を与えた。

 それまでボードゲームなどで活用されてきたAIは、すべての可能性のある解をしらみつぶしに検索し、最も勝ちやすい手を導き出す「力任せ検索」という伝統的な手法をとっていた。しかし囲碁は他のボードゲームより打つ場所がはるかに広いため、AIでも打ち勝つことは困難と考えられてきた。そこでアルファ碁はディープラーニング(深層学習)を用いて評価関数を作るなどAI技術を飛躍的に進化させ、見事にその困難を克服した。

 アルファ碁はプログラムを動かすのに大量のハードウエアや電力を必要としたが、TPU(Google社のディープラーニング専用マシン)を使うなどよりコンパクトに、より省電力にとバージョンアップを重ねる。その間に、「絶芸」、「Golaxy」、「KataGo」などのAIによるコンピューター囲碁プログラムが続々と出てきて、個人のPCなどでも使えるようになった。AIは対等に勝負するものではなく、研究するためのツールとして身近になったのである。

 AIは着手の評価値を数値で表す。現局面の勝率を出し、次の着手の評価値が上がるか下がるかでその手の良し悪しを判断する。AIが次の最善手の地点を青く光らせることで、好手のことを「ブルーポイント」といったり、評価値の下がる手を「AIに叱られた、怒られた」などと表現したりする。

 AIはこれまで人間がだめと思っていた手をよしとしたり、逆に人間がよいと見ていた手の欠点をあぶり出したりもする。人間の盲点をつく発想を披露して、碁の考え方を大きく変革させているのだ。