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新疆ウイグル自治区のカシュガル旧市街をパトロールする警察(写真:ロイター/アフロ)

(文:佐々木俊尚)

AIが犯罪者候補を抽出し、犯行前に警察が取り締まる。そんなSFのような話が新疆ウイグル自治区ではすでに現実に起こっている。AIへの巨額投資を惜しまない中国では、監視システムによって社会が良くなったとの声も。AIは人類の敵か、味方か。

 実に驚くべき書籍である。ジェフリー・ケイン(訳・濱野大道)『AI監獄ウイグル』は、テクノロジーを政治的弾圧にどのように使っているのかを徹底的に明るみに出しており、このような内容の書籍は過去に類を見ない。

 本書で描かれている中でも最もわかりやすい事例は、ウイグル人への「予測的取り締まり」だろう。AI(人工知能)とパーソナルデータによって、将来の犯罪者候補を抽出し、犯行の前に警察が取り締まるというものだ――こう書くと、ピンと来る人も多いだろう。そう、トム・クルーズ主演の2002年の映画「マイノリティ・リポート」である。殺人予知システムが実用化された未来の米国では、警察の犯罪予防局が未然に殺人者を摘発し、殺人発生率がゼロに抑え込まれている。まさにこの作品と同じ事態が、いま新疆で進んでいるのである。

 映画では超能力者が犯罪を予知するという設定だったが、ウイグルで行われている予測的取り締まりの立役者はAIだ。2010年代に入ってからのAIの進化は凄まじいものがあり、データを十分に集めることができれば、人間の目ではまったく気づかないような傾向や特徴などでも即座に発見してしまうことができる。

AlphaGoで受けた中国の衝撃

 われわれがその凄さを最初に見せつけられたのは、2015年に登場した囲碁プログラム「AlphaGo」だろう。2016年に世界トップクラスの棋士である韓国のイ・セドル九段を四勝一敗で制し、人々に衝撃を与えた。膨大な数が蓄積されている過去の人間の棋譜を読み込んで、どのような局面でどのような手を打てば勝利に近づけるのかというデータを抽出。さらにはプログラム同士での「自己対戦」も大量に行って、人間の棋士を寄せつけない棋力を身につけるようになった。

 このAlphaGoの出現に衝撃を受けたのは、われわれ一般社会の人間だけではない。中国共産党政府もそうだった。囲碁はそもそも古代中国で生まれたゲームだが、そのゲームに欧米のAIが勝利したのだ。この衝撃がどれほどのものであったか。本書では、台湾出身で中国在住のコンピューター科学者カイフ・リーの実に的確なことばが紹介されている。

「中国のスプートニク的瞬間」

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