新型コロナの新規感染者数はピークアウトしつつあるが、「ゼロコロナ」の後遺症に悩まされている(写真:AP/アフロ)

(平田 祐司:香港在住経営者)

 1日の新型コロナ新規感染者数が一時期6万人に迫った香港の感染拡大もここ数日は1万人を下回り、ようやくピークアウト感が出てきた。香港大学は最大350万人程度の感染者が出たと推計している。筆者の周りを見ても、およそ市民の3人ないし4人に1人程度が感染した印象が強い。

 北京中央政府の意向を受けて進めてきた「ゼロコロナ」政策は明らかに破綻したことになるが、香港政府は相変わらず、「ダイナミックゼロ」の看板を下ろさず、市民の失笑と怒りを買っている。

 外国資本と外国人の香港流出も止まらない。アジアのハブとして自由にヒト・モノ・カネが行き交う国際都市、香港が香港たる存在理由を自ら損ねてしまった。「中華人民共和国香港特別行政区」はこのまま衰退していくのだろうか。

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世界最悪のコロナ致死率は「人災」か

 香港での新型コロナ致死率(死亡者数÷累計感染者数)は1%を超えており、日本や韓国に比べてはるかに高い。直近の第5波(オミクロン株)での比較では世界最悪となっている。香港は都市国家なので他の国と単純比較はできないにせよ、重症化や免疫不全によって連日、多数の方々が亡くなっている現実には心が痛む。

 中国系建設会社によって急ごしらえで増設された隔離病床も、果たしてどこまで致死率低減に効果があるのか。

 事実上、鎖国に等しい入国制限と徹底隔離に重点を置きすぎたあまり、肝心の域内での治療・療養体制整備が後回しになっていたのではないか。

 老人ホームや障害者施設へのワクチン巡回接種は十分にできていたのか。

 そもそも中国ワクチン(シノバック)にどこまで重症化予防効果があるのか。

 国安法施行以降、少なくない医療従事者が香港を離れていった事実も含めて、世界最悪の致死率を招いた様々な要因について分析し、再発防止に向けて政策転換を図るような声は、もちろん香港政府から聞こえてこない。

 メディアや逮捕を逃れた民主派活動家も、一様に声を潜めている。そうした政府批判が「国家安全を損ねる」「市民を扇動する」との嫌疑をかけられ、罪に問われる今の香港では、残念ながら行政に対するチェック・アンド・バランスも自浄作用も機能しない。

 世界最悪の致死率をもたらした要因には、そうした社会構造や統治システムの欠陥も少なからずあると筆者は感じている。