2019年から2020年にかけて香港では大規模な民主化デモが起きた。その後、関係者が相次ぎ逮捕されている(写真:ZUMA Press/アフロ)

(平田 祐司:香港在住経営者)

 香港でオミクロン株の感染拡大が止まらない。2月17日には新規感染者が6116人となり、医療施設に収容できない感染者は1万2000人にも達した。高齢の感染患者が病院外に設置された急ごしらえの屋外テントで夜を明かすという、信じられない光景が繰り広げられている。

 徹底した入国制限と3週間にも及ぶ強制隔離で感染拡大を押さえてきたまではよかったが、その結果として生じた新型コロナへの社会的耐性のなさが、ここに来て一気に露呈した格好だ。

 この状況を受けて、習近平国家主席は「あらゆる手段を講じてコロナを封じ込めろ」と香港政府に異例の指示を下した。香港が欧米のようにコロナとの共生に傾くことなく、中国同様、徹底した「ゼロコロナ」政策を堅持するよう香港政府に対し強く命じたという(16日付香港の親中派メディア大公報による)

香港で始まった感染急拡大と医療崩壊

 人口740万人の香港で新規感染者6116人となれば率にして0.083%。人口1400万人の東京都で換算すれば1日あたり1万1620人、感染が急拡大した1月下旬の状況に近い。

 香港の人口密度や低所得者層の居住環境から考えれば、東京と同レベル、もしくはそれ以上に感染者が増加する可能性も否定できない。東京のピーク時が人口比で0.15%程度なので、推計すれば香港での新規感染者もほどなく1万人を超える可能性も懸念される。

 深刻なのは医療崩壊で、日本でいう「コロナ専用病床」の絶対数が足りない上、院内感染ともいえる医療従事者の感染数が急増しており、地域の個人病院も門を閉じて臨時休業するところが出始めた。

香港では病床が足りず、屋外の仮説病棟で過ごす患者が増えている(写真:ロイター/アフロ)

 いずれ無症状感染者の自宅隔離など日本と同様の措置は取られるだろうが、ゼロコロナを掲げる以上、基本的に感染者は厳重隔離される。急ぎ香港政府はホテルなどの宿泊施設や学校の寄宿舎、未入居の公共住宅などに感染者を隔離する方針だ。中国同様、遠隔地に野戦病院のような収容施設を急ごしらえで作るという案も浮上している。

 医療従事者や救急患者を搬送する消防局の職員も絶対数が足りず、中国は検査人員を含めた医療スタッフを香港に派遣すると発表した。既に深センから香港に入った中国人医療スタッフが現場で活動を開始しているようだ。