4.戦場での使用はサリンとマスタード
化学兵器というと、自衛官であれば、神経剤・びらん剤・血液剤・窒息剤の特色や効果について幹部候補生学校や教育隊で習ったので概要は知っている。
だが、自衛官以外の人は、兵器として使用される化学剤について、サリン事件のイメージは持っているが、どんなものか、どのようにして使用されるのか、使われるとどうなるか、国外では使用されたが日本にも使われるのか、その脅威(被害)はどんなものか、どう対応すればよいか、についてほとんど知らないのが実情である。
化学兵器が実際に使用されれば多数の被害者が出る(数人ではなく、少なくとも数百人)
サリンであれば数キロ、マスタードであれば数百メートルまで広がる。
サリンの場合、域内の人々は、数分も経たずに静かに倒れて死亡する。影響が少ない人も、一部泡を吹いたり、痙攣したりして倒れる。
少しでも吸い込んだ多くの人々は咳をし、あるいは嘔吐して、病院に担ぎ込まれる。
化学職種以外の自衛官は、幹部であっても知識はあるものの、化学兵器の怖さを感じたことはないのではないだろうか。
筆者は、中国にある遺棄化学兵器の調査で、砲弾から漏れた化学剤に触れて冷や汗をかいたことや、マスタードが漏れている弾に触れる可能性が高かったときにかなり緊張したことを覚えている。
神経剤には、タブン(GA)、サリン(GB)、ソマン(GD)、V剤(VX)、ノビチョクがあり、保管状態は無色の液体である。
使用されると、神経に作用して、呼吸麻痺、全身痙攣など、速やかにその症状が現れる。ソマンとタブンはかすかな果実臭があるがサリンなどは無臭とされる。
ダマスカス郊外での写真やテレビ映像を見ると、これらの兆候が顕著に現れていた。また、臭いがしたという住民の話はなかった。
救助した人々も剤の被害を受けた。持続性は数時間から1~2日であるが、一連の報道を見ていると、野外であったこともあり、数時間程度であったのだろう。
日本国内では、オウム真理教による松本サリン事件(1994年6月)や地下鉄サリン事件(1995年3月)の映像を見て大きな衝撃を受けたが、2013年のシリアでのサリン事案の映像は、日本におけるサリン事件を上回る衝撃的なものであった。
日本の報道では、人道的なフィルターがかかっているためかそれほど衝撃的ではなかったが、海外メディアの報道をみると、「これがサリン攻撃のすさまじさなのか」と鳥肌がたった。
戦場で使用しやすいのは、サリンとマスタードだ。
砲弾、多連装ロケット、短距離弾道ミサイルおよび空対地ミサイルに搭載して使用される可能性が高い。
化学剤の種類と特色
