長期的に見て、戦場で部隊を失うことはウクライナにとって悪い兆しになる。
それぞれの弱点と損害――ウクライナ市民の死傷者数、特にマリウポリでのそれは多い――が念頭にあるのか、ロシアもウクライナも、停戦もしくは終戦に向かうかもしれない交渉に以前より真剣に取り組んでいるように思える。
ここ数日間でウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に「加盟しない」ことを認めたゼレンスキー氏は、ロシアが停戦について「より現実的に」なっているようだと述べている。
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は3月16日、ウクライナが中立国になって国の安全に対する保証を得る取り決めについて両国が「合意に近づいている」と語った。
もっとも、フランスのジャン・イブ・ルドリアン外相は、ロシアは交渉するふりをしているだけだと述べたと伝えられている。
停戦に向けた大きな障害
交渉で障害になりそうな問題は、争われる領土だけではない(もしマリウポリを陥落させたら、ロシアは同市を含むドンバス地方で得たものをそのまま支配し続けたいと考える)。
どのような安全保障を誰が提供するのかということも、領土問題と同じくらい、あるいはそれ以上に重要になるだろう。
ウクライナ側の交渉メンバーの一人であるミハイロ・ポドリャク氏は本誌エコノミストの取材に対し、受け入れられる取引は「具体的で法的拘束力のある保証」が付いたもの。
つまりウクライナが「何らかの攻撃を受けた時」に米国、英国、トルコなどウクライナの同盟国が「積極的に介入できる」内容だけだと語った。
ゼレンスキー大統領の側近アンドリ・イェルマク首席補佐官は、保証する側にはウクライナの友好国だけでなく、国連安全保障理事会の常任理事国5カ国すべてが加わらなければならないと主張している。
イェルマク氏はさらに、合意の土台は両国の交渉団で用意できるが、いかなる合意も最終的には両国の大統領によって交わされなければならないと述べている。
両者の切り札の強さは、今後の戦いの形勢に左右される。
どちらかが、あるいは双方が切羽詰まるまでは、交渉が大統領のレベルに持ち込まれることはないかもしれない。
しかし、何が起きるとしても、ゼレンスキー氏が世界の善意とウクライナ国民の熱烈な期待を交渉のテーブルに持ち込むことは、3月16日の放送で明らかになっている。
キエフの電気技師のウラディスラフさんは「大統領には『勝つまで戦え!』と言いたい」と話している。
一方、プーチン氏の立場は、ロシアの国内状況とそれに対する見方によって形成される。どちらもウクライナに比べればはるかに暗いものだ。