「自称イタコ」と「商業イタコ」

──青森県いたこ巫技伝承保存協会は、イタコを歴史的伝統的イタコとそれ以外に分けています。

江刺家:イタコを名乗る方はいろいろといるようですが、私たちは歴史的伝統的イタコの定義から外れるイタコは「自称イタコ」「商業イタコ」と読んで区別しています。

 それでは、歴史的伝統的イタコとは何かというと、(1)師匠の師弟系譜が4代、5代とはっきりしていること、(2)師匠にもらったイタコ数珠とオダイジを持っていること──の2点にあると考えています。

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──「師匠系譜」とは、どういう意味でしょうか。

江刺家:南部地方に関していえば、今から250~260年前に、イタコが目の見えない女性の仕事として組織化されたという歴史があります。

 その時代、死者の口寄せなどの技を持っていた「太祖婆(たいそばあ)」と呼ばれる盲目イタコがいました。その太祖婆が、山伏修験の鳥林坊(ちょうりんぼう)と、その妻で同じ盲目の高舘婆(たかだてばあ、高舘イタコ)にイタコの技法を伝え、鳥林坊と高舘イタコが盲目の女性を組織化し、伝承していきました。

 それゆえに、イタコは師匠系譜を辿ることができます。中村タケも、松田広子も、直接の師匠は別の方ですが、系譜を辿れば、高舘イタコに行き着きます。霊媒師やシャーマンと言われる存在は他にもいますが、イタコはある日突然、カミが憑依してなるのではなく、修行を通して師匠イタコの技法を身につけた存在です。そのため、師匠系譜が辿れるかどうかは重要です。

──もう一つのイタコ数珠とオダイジとは何でしょうか。

江刺家:イラタカ数珠(イタコ数珠)とは、ムクロジの実をつなぎ合わせた長い数珠で、両側には猪の牙や鹿の角、寛永通宝などの古銭がついています。野獣の牙や角で装飾されているのはお祓いや悪魔祓い、おまじないなどのため。古銭は三途の川の渡し船賃です。

 一方のオダイジは、イタコが背中に背負っている竹筒で、中には経文の一部が入っています。新しくイタコになった人間が悪霊や生き霊に取り憑かれることのないよう、守るためのものです。この経文は師匠イタコが選び、オダイジに入れます。

 イタコ数珠とオダイジは師匠イタコの下で修行したという証。そのため、私たちは歴史的伝統的イタコの条件として重要視しています。

イラタカ数珠(左)とオダイジ

──なぜ失明した女性がイタコになったのでしょうか。