二.ロシアとウクライナの戦争が国際情勢に与える影響の研究判断

1.アメリカは再度、西側世界の主導権を獲得し、西側内部はさらに団結し、統一していく。現在(中国の)世論は、ウクライナ戦争はアメリカの覇権の徹底した崩壊を意味すると認識している。だが、実際には戦争によって、それまでアメリカから離れようとしていたフランスとドイツが、NATO(北大西洋条約機構)の枠組みに改めて引き込まれる。ヨーロッパで自主外交、自主防衛を実現しようという夢想は、破壊されるのだ。

 ドイツは軍事予算を大幅に増加することになった。スイスやスウェーデンも中立を放棄した。「ノルドストリーム2」(ロシアからドイツへの海底天然ガスパイプライン)は、無期限の停止となった。ヨーロッパのアメリカ産天然ガスに対する依存度は、必然的に増加していく。アメリカとヨーロッパはさらに緊密な運命共同体を構成していき、アメリカの西側世界での指導的地位はV字回復することになる。

2.バルト海から黒海まで「鉄のカーテン」が再び敷かれるばかりか、西側が主導する陣営と競争者との最終決戦の様相を見せる。西側は民主国家と独裁国家の線引きをし、ロシアとの分岐を、民主と独裁の闘争と定義づける。

 新たな鉄のカーテンはもはや、社会主義と資本主義の両大陣営の線引きではない。また局面は、冷戦時代のものにとどまらない。そうではなくて、西側の民主と反西側の民主による生死を分けた決戦になるのだ。

 鉄のカーテンのもとで、西側世界は鉄板のように一枚岩となる。それは他の国にサイフォン現象(水位の一致)を及ぼし、アメリカのインド太平洋戦略は確固としたものになる。日本などの国もさらにアメリカに貼りつくようになる。アメリカは空前の範囲で民主統一戦線を築くだろう。

3.西側のパワーは明確に増長し、NATOは引き続き拡大していく。アメリカの西側世界における影響力もアップする。ロシアとウクライナの戦争の後、ロシアはどんな形でレジームチェンジを実現しようとも、世界における反西側のパワーは、大幅に削減されていくだろう。

 おそらく1991年のソ連東欧の政変後の場面が、繰り返されるだろう。(東側の)イデオロギー終結論が再現され、第三波の民主化の潮流の動きが止まり、さらに多くの第三世界の国々が、西側に抱きついていくだろう。西側は軍事もしくは価値観と制度上、すべての「覇権」を保有し、ハードパワーもソフトパワーも新たな高みに達する。

4.中国は既定の枠組みの中で、さらに孤立していくだろう。上述の原因によって、中国がもしも積極的な対応策を取らないのであれば、アメリカと西側のさらなる包囲網に遭うだろう。

 アメリカはそれまで中国とロシアという二つの戦略的競争敵対国に直面していたが、プーチンの失脚後は、中国だけを戦略的に抑止し、鎖につなぎとめておけばよくなる。ヨーロッパもさらに中国と距離を置くだろう。日本は反中国の急先鋒となり、韓国もさらにアメリカに傾く。世界のその他の国も、一方(アメリカ)に付かざるを得ず、またそうした国民の声に呼応するだろう。台湾でも反中陣営に加われという大合唱が起きる。

 中国は、アメリカとNATOばかりか、QUAD(日米豪印)、AUKUS(米英豪)の軍事的な包囲網にも直面する。さらに西側の価値観と制度の挑戦にも直面するのだ。