(田丸 昇:棋士)
羽生善治の記録を大幅に更新した「五冠」
1月に始まった第71期王将戦七番勝負で、渡辺明王将(名人・棋王を合わせて三冠=37)に藤井聡太竜王(王位・叡王・棋聖を合わせて四冠=19)が挑戦した。そして、藤井は2月中旬の第4局に勝って4連勝し、王将のタイトルを初めて獲得した。
その結果、藤井は最年少記録の19歳6カ月で「五冠」を取得した。羽生善治九段(51)が1993年に打ち立てた22歳10カ月の記録を大幅に更新した。
藤井が見せた特別な計らい
藤井は王将戦で圧倒的な強さを発揮した。そんな快挙の一方で、複雑な思いを抱いたのは第5局以降の対局場だった。準備万端整えていても、勝負が決着すれば対局は行われない。
しかし、藤井は特別な計らいをした。王将戦第5局が行われる予定だった2月下旬、佐賀県上峰町を訪れたのだ。
25日は王将獲得を記念した祝賀会に出席し、地元の将棋ファンから拍手を浴びた。「初心」「飛翔」と揮毫した色紙には、「王将 藤井聡太」と初のタイトルで署名した。
26日は記念植樹を行い、「上峰町子ども王将戦」を視察した。その後、対局場の「太幸園」を訪れ、藤井と1字違いの名前である総料理長の藤聡太郎さんと初対面した。そして、藤さんは藤井に昼食を提供した。そのメニューを紹介する。
①佐賀牛の陶板焼き(サーロイン・ヒレ)②宮崎県産ヤマメの塩焼き③鹿児島県産ウナギのかば焼き④佐賀県産レンコンとつぼみ菜の天ぷら⑤佐賀県産ブランド「いちごさん」ムース⑥プリン、チーズケーキなど。
藤さんは王将戦の対局で準備していた地元や九州の食材を使い、凝縮した形で出したという。昼食というよりも、夕食のコース料理のように皿数が多くて豪華である。若い藤井は食欲が旺盛だが、果たして平らげたのであろうか・・・。
近年、タイトル戦の決着局以降の対局場や地元ファンに配慮して、こうした催しがよく開かれる。対局日として空けておいたので日程に問題はないし、タイトル獲得を最初に祝ってもらうのはうれしいものだ。
温泉で英気を養う
昨年10月に始まった第34期竜王戦七番勝負で、豊島将之竜王(31)に挑戦した藤井三冠は、同じく4連勝して竜王のタイトルを初めて獲得した。
藤井はそのときも、竜王戦第5局が行われる予定だった11月下旬には、対局場の岡山県倉敷市「円通寺」を訪れ、境内の紅葉を見ながら散策した。夕方にホテルで開かれた祝賀会では和服姿で登場し、竜王戦の対局を大盤で解説した。
竜王戦第6局が行われる予定だった12月上旬には、対局場の鹿児島県指宿市「指宿白水館」を訪れた。師匠の杉本昌隆八段(53)も同行し、師弟で名物の「砂むし温泉」に入って英気を養った。