文=田丸昇

棋士の田丸昇九段が天才・藤井聡太の実力を棋士の目線で分析するシリーズ。今回は藤井が挑戦する竜王戦の展望と、「八冠」の可能性を探ります。

2017年5月25日、プロデビューより19連勝する藤井聡太四段(当時)写真=Rodrigo Reyes Marin/アフロ

竜王のタイトルを獲得すれば「四冠」

 藤井聡太三冠(19=棋聖・王位・叡王)が豊島将之竜王(31)に挑戦する竜王戦7番勝負が10月上旬から始まる。

 藤井が竜王のタイトルを獲得すれば「四冠」を取得し、2年前に三冠を保持していた豊島は「無冠」になる。ともに大きな勝負だ。

 藤井と豊島の公式戦の対戦成績は、今年の6月まで藤井が1勝7敗と負け越していた。

 しかし、7月中旬の王位戦7番勝負(藤井王位ー豊島竜王)第2局で、藤井がずっと不利だった形勢で逆転勝ちを収めたことで、勝負の流れが変わったようだ。

 藤井は、王位戦で豊島を4勝1敗で下し、豊島に挑戦した叡王戦5番勝負は3勝2敗で破った。

 両者の対戦成績(9月末日時点)は藤井の8勝9敗。7月以降は藤井が7勝2敗と勝ち越している。

 豊島は竜王のほかに、名人、王位、棋聖、叡王のタイトルを以前に獲得したが、初防衛戦でいずれも敗れた。

 しかし、豊島は前期の竜王戦で、タイトル獲得100期を目指す「レジェンド」の羽生善治九段(51)の挑戦を4勝1敗で下し、初防衛を初めて果たした。それは大きな自信になったはずだ。今期は新たな決意で竜王戦に臨むであろう。

 

研究者7割・勝負師2割・芸術家1割

 藤井はAI(人工知能)を搭載した高性能の将棋ソフトを用いて深く研究している。ただ最近の対局を見ると、定跡形や流行形を外した力戦形が多い。そうした戦いもAIで解析される時代だが、自分から「けんか将棋」を売っているような感じがする。

 格下が格上に対抗するために、型破りな指し方をすることはある。しかし、藤井は若いとはいえ三冠のタイトル保持者。大将が敵の怪しげな誘いに乗り、戦場に斬り込んでいくようなものだ。

 藤井はある対談で、「自分の将棋のイメージは、研究者7割・勝負師2割・芸術家1割」と語ったことがある。

 勝負師の観点なら、前述のような危うい戦いは避けた方がいい。しかし、机上(パソコン)の研究ではなく、山野での荒っぽい戦いも経験したい、という研究者の観点から指しているのだろう。それでいて、しっかり勝ってしまうのが藤井のすごいところだ。