(田丸 昇:棋士)
2日制タイトル戦で行われる「封じ手」
2日制タイトル戦(竜王戦・名人戦・王位戦・王将戦)では、1日目の夕刻に「封じ手」が行われる。
立会人の棋士は定刻の18時になると、手番の対局者に「封じ手の時間になりました」と伝える。その対局者は別室に移り、2枚の図面用紙に次に指す手を記入する。それが封じ手である。
その対局者は、図面用紙を別々の封筒に入れて封印し、所定の箇所にサインする。対局室に戻ると立会人に渡し、立会人から封筒を受け取った相手の対局者も同じくサインする。
封じ手の封筒の表には、両対局者と正・副の立会人の名前のほかに、棋戦名・日にち・対局場の所在地と名称が事前に書かれてある。
2通の封じ手の封筒は、正立会人が1通を自分の部屋の金庫に収め、もう1通は対局場の金庫に収められる。
そして、翌日の対局開始時に封じ手を開封し、
「封じ手」は公平性を保つためにある
ところで、封じ手はなぜ必要なのか?
1日目の終了時に手番の対局者が盤上で指した場合、相手の対局者は2日目の開始時まで、その手について考えることができる。
1日目の終了時に手番の対局者が指さなかった場合、当の対局者は2日目の開始時まで、自分の手を考えることができる。
つまり封じ手は、どちらかの対局者が時間的に有利にならないように、公平性を保つためにある。
18時の封じ手時刻の15分ぐらい前になると、手番の対局者が封じ手を行うのが慣例である。
記録係は2枚の図面用紙に、現在の局面を少しずつ書いて準備する。定刻の間際に指すこともあるので、指す可能性が低い駒から書いていく。手番の対局者が定刻の前に、「図面を書いておいてください」と記録係に言えば、封じ手を行う意思表示になる。
私こと田丸は、タイトル戦の対局の経験がないので、1日目の封じ手を「行った側」と「受ける側」の技術面や心理面の違いはよくわからない。経験が豊かな棋士は、どちらでも気にしないだろう。ただ未経験の棋士は、少しばかり心配かもしれない。