ウクライナの戦争に至る過程では、ガスプロムが政府の利益に寄与しつつ自らの懐を潤わせる手法が典型的な形で示された。

 同社は天然ガスの重要な中継ルートになっているウクライナを迂回しようと何年も前から努力を重ねており、ついに欧州の北部と南部への代替パイプラインを建設するに至った。

 2024年にウクライナとの契約が期限を迎えた時に備え、強力な交渉力を手に入れるのが狙いだった。

 また、新しいパイプラインによって得をする国と損をする国があり、それらの国々が互いに反目し合うようになった。

 ここ数カ月、欧州で需要が急増した時、余ったガスのごく一部しか送らなかったガスプロムの判断は、商業的には理にかなっていた。

 結果として生じたスポット価格の上昇が同社に記録的な利益をもたらしたからだ。

 しかし、この行動はメッセージも送っていた。

 欧州はガスプロムの存在を当然視するべきではない、ということだ。

 シンクタンクのオックスフォード・エネルギー研究所(OIES)のジャック・シャープルズ氏は「欧州を常時警戒させておくことは、同社の目的にかなっている」と語る。

企業による地政学的な蛮行

 冷戦以降、西欧諸国はガスプロムのこの厄介な一面に目をつぶる傾向があった。それどころか、同社のガスに過剰に依存するようになった。

 消費するガスの約半分をロシアから調達しているドイツは、特に反感を買う立場にある。

 ガスプロムの取り巻きのなかには、ノルドストリームの会長職にあるゲアハルト・シュレーダー元ドイツ首相など、並外れた不評を買って当然の人物もいる。

 一方、ポーランドなど旧東側の国々はそのような幻想を抱いていない。

 ガスプロムは握手の手を差し出してくることもあれば、その手にナックルダスターを装着して振り回す場合もあることを承知している。