(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
2月24日にロシアがウクライナへ侵攻し、おおむね1週間が経過した。この間、ロシア軍は首都キエフを含めたウクライナの主要都市に攻撃を仕掛けている。この惨劇を受けて、一枚岩でなかった欧州連合(EU)も連帯を強めている。いずれにせよ、今回のウクライナ侵攻でロシアの財政は悪化を免れず、侵攻が長期化するほどひっ迫を余儀なくされる。
国際通貨基金(IMF)によると、ロシアの公的債務残高は2020年時点で名目GDP(国内総生産)の19.3%と非常に少ない。コロナ禍直前の2019年時点で13.8%に過ぎなかったのだから、2020年の数字はそれでも異例の高水準と言える。2021年は17.9%と推計されているが、現在の状況を踏まえると再び膨張した可能性が高い。
国際比較の観点からも、ロシアの公的債務残高の小ささは突出している。BRICsの間で2020年時点の数値を比べると、ブラジルの98.9%を筆頭に、インド89.6%、南アフリカ69.4%、中国66.3%であり、ロシアの公的債務残高の規模の小ささが浮き彫りになる。この公的債務残高の数値だけにスコープを当てれば、ロシアの財政は極めて健全である。
とはいえ、それはロシアの財政に拡張の余地があることを意味するものではない。つまり国債の発行を通じた財政の拡張が難しかったからこそ、ロシアは健全財政に努めざるを得なかったのである。その結果が、GDPとの対比で測った公的債務残高の小ささにつながっている。それではなぜ、ロシア政府は国債を大々的に発行できなかったのだろうか。
ロシア政府が国債を大々的に発行できなかった理由は様々だが、最大の理由は過去の財政危機の経験にあると言えよう。
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