それ以上に問題なのは、ガスプロム自体が制裁対象になるか否かだ。

 攻撃前には、欧州諸国がガスプロムに大きく依存していることから、同社はそれほど苦しまずに済むと見られていた。

 ロシアが国際銀行間通信協会(SWIFT)の決済ネットワークから排除されることがあっても――西側の一部の政治家は排除を求めている――欧州の顧客とガスプロムとのつながりが完全に切れることはないだろう。

 エネルギーの代金を支払う欧州諸国にとっても決済手段は必要である、というわけだ。

 前出のミクルスカ氏などからは液化天然ガス(LNG)の「ガスリフト」でガスプロムのパイプラインを迂回する案が提示されている。

 1948~49年のロシアによるベルリン封鎖を克服した「ベルリン空輸」の海上輸送版だが、実行される可能性は小さそうだ。

 クレムリンに対するガスプロムの忠義が戦争のさなかに揺らぐことはないだろう。

 大手石油会社のロスネフチのような大統領のほかのペットがパイプライン経由での天然ガス輸出事業の独占をガスプロムから奪い取ろうとするなかでも、ガスプロムは忠実な僕(しもべ)になることにより、政権から必要な支援を勝ち取ってきたのだから。

気に入らなくとも、それが現実だ

 それでも、今回の紛争はガスプロムの評判に深刻な打撃を及ぼす。

 欧州諸国にとってこの戦いは、LNG輸入ターミナルを増やす投資を行い、ロシアへのエネルギー依存度を低下させるべく再生可能エネルギーの生産能力を増強せよという警鐘になっている。

 一連の経過は中国でも熱心に観察されるだろう。

 ガスプロムは欧州以外の地域でもガスを売って顧客の多角化を図ろうと、近年は中国に力を入れている。中国はプーチン氏の好戦的な態度はそれほど問題にしないはずだ。

 だが、北京の中国共産党でさえ、欧州への締め付けを目にすれば、ガスプロムは本当に信用できるのだろうかと疑問を抱いても不思議はない。

 この大蛇が今後、自縄自縛に陥る恐れはまだ残っている。