世界第4位となる約2億6000万人の人口を誇るインドネシアは、うち約88%がイスラム教徒という世界で最もイスラム教徒を抱える国である。また、独立時にスカルノ大統領がイスラム教を国教とせず、キリスト教、ヒンズー教、仏教、儒教をも容認したことから、「多様性の中の統一」「寛容」を国是にしている国でもある。
それでも、圧倒的多数を占めるイスラム教徒の発言力、影響力、強制力は極めて大きい。そしてイスラム教徒が最も権威ある団体としているのがイスラム指導者による組織「インドネシア・ウラマー評議会」(MUI)である。
首都ジャカルタにある本部のほか、各州に支部が置かれているMUIは、イスラム教法理に基づき政治的、社会的な事象に対し様々な見解、勧告、布告である「ファトワ」を発出する権限を持つ。さらにはイスラム教徒の食事に関して飲食、摂取が可能な「ハラル(許されたもの)」と「ハラム(許されないもの)」という禁忌に関する認証も行う。つまりはインドネシアにおけるイスラム教徒の生活の一般的な方向付け、指示を出すという教徒にとっては重要な組織なのである。
ところが、最も権威があるとされるMUIの地方役員が近頃、テロ関連法違反容疑で逮捕されるという事件が起こった。この一件にインドネシアではイスラム教関係者のみならず国民が衝撃を受けている。たとえは不謹慎だが、日本でもしも仏教界の指導的立場にある人物がテロ行為に関わっていたとしたら大騒動になるだろう。インドネシアではまさにそれと同じようなことが現実となった。
テロ組織のメンバー、逮捕してみたら・・・
事件のあらましはこうだ。
2月9日に国家警察対テロ特殊部隊「デンスス88」が、スマトラ島ジャンビ州の州都ベンクルで、テロ組織「ジェマ・イスラミア(JI)」のメンバー3人をテロ対策関連法違反容疑で逮捕した。
ところが3人のうち2人がMUIのベンクル支部の役員だったことが判明したのだ。