つまり、今回のサイバー・パルチザンの攻撃がランサムウェアを使ったものではなかったとしても、将来、より甚大な被害をもたらすランサムウェア攻撃に本当に訴える可能性は大いにある。
そのため、サイバー・パルチザンの今回の発表に触発され、イデオロギーや政治的主張に基づく脅迫において、地政学的な危機に乗じ、より「効果的な」取引材料としてランサムウェア攻撃を使う民間のハッカー集団が、今後出てきたとしても不思議ではないだろう。
日本も対応計画を練る必要がある
日本に対し、イデオロギーや政治信条に基づく要求を通すために民間のハッカー集団がサイバー攻撃を行う頻度は、これまでそれほど高くはなかった。とはいえ、次のような事件は関係者の間でよく知られる。
著作物の違法ダウンロードに刑事罰を導入する著作権法改正案が国会で可決されたことに反対する国際ハッカー集団「アノニマス」は、2012年6月、日本の複数の政府機関に対し、ウェブサイトの改ざんやDDoS攻撃を仕掛けている。
さらに同年9月、尖閣諸島の国有化の直後、中国の愛国主義的ハッカー集団「紅客連盟」が、日本の政府機関へのサイバー攻撃をネット上で呼びかけた。結果、複数の日本の政府機関や病院などのウェブサイトが改ざんされ、尖閣諸島と見られる島の上に中国の国旗がはためく画像と、「尖閣諸島は中国のもの。日本も中国のもの」とのメッセージが投稿されてしまった。
こうした事態が今後再び起きないとも限らない。また、海外に拠点を置く日本企業が、ウクライナ情勢のように地政学的な緊張関係の高まりのもと仕掛けられるサイバー攻撃の余波に、巻き込まれる可能性もある。だからこそ、日本政府も企業も、こうした新たなシナリオを念頭に置いて、サイバー攻撃対応計画を練る必要があろう。

松原実穂子
NTT チーフ・サイバーセキュリティ・ストラテジスト。早稲田大学卒業後、防衛省勤務。米ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院で修士号取得。NTTでサイバーセキュリティに関する対外発信を担当。著書に『サイバーセキュリティ 組織を脅威から守る戦略・人材・インテリジェンス』(新潮社、大川出版賞受賞)。
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