香港立法会選挙の開票作業(2021年12月19日、写真:AP/アフロ)

(福島 香織:ジャーナリスト)

 民意を問う投票行動は、民主国家の要である、と私も思う。だが、12月に行われたいくつかの国際社会が注目する選挙や住民投票を見ているうちに、単純に民意を示すというにとどまらない複雑な背景を考えさせられた。

親中派が勝つ仕組みになっている香港立法会選挙

 1つは、言うまでもなく12月19日に行われた香港の立法会選挙。これは、今年(2021年)3月に香港の選挙制度が北京によって「改悪」されて以降、初めての選挙で、立候補者はすべて愛国者であるかどうかの審査を受け、共産党に忠実な愛国者以外が当選できない仕組みの中での選挙だった。

 本当は昨年9月に行われる予定であったが、新型コロナを理由に当局によって1年あまり延期された。そして延期された時間を利用して、中国は香港の選挙制度を「改悪」した。直接選挙枠を35議席から20議席に減らし、40議席は1448人中1447人が親中派(1人は中間派)という選挙委員会からの選出とし、産業別議席枠35議席から区議枠5席を減らした。区議枠は、2019年の選挙で民主派が圧勝したことで、民主派が当選する可能性があるからだ。しかも、直接選挙枠に立候補する候補はすべて「愛国者」であることが審査され、事実上、北京の中国政府が出馬の可否を最終的に決めるというものだった。わざとニセ民主派、自称「非体制派」の候補を出馬させ、いかにも普通の選挙っぽく見せる演出までした。

 直接選挙枠20議席に対する投票率は30.2%と香港の選挙において史上最低だった。有効投票132.3万票、無効投票2.7万票。無効票率は2.04%で前回2016年の立法会選挙より0.5ポイント高く、やはり歴代選挙において最高の無効票率だった。

 本物の民主派候補として出馬を予定していた人たちは、今年の1月のうちに逮捕されたり、弾圧されていた。また選挙前、香港当局は、中文大学の元学生会長、蘇浚鋒ら10人を、投票に行かないように、あるいは無効票を投票するように煽動したとして、選挙条例違反の疑いで逮捕していた。